tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語の名言:美しいものを見る能力を保っていれば,誰でも決して老いません(フランツ・カフカ)

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サルヴァドール・ダリ『聖母』             

           

                                                        March.1.2018 

 

 

フランツ・カフカは,1883年チェコ生まれの

ドイツ語作家です

 

      ある朝,目覚めると,虫になっていた

 

ショッキングな第一文で始まる『変身』の作者です

 

主人公グレーゴルは理由もわからずに

虫に変身してしまい,

しかも部屋から出られないほど大きくなり,

最後まで何故だかは説明されず,

救われることなく,いきたえます

 

カフカは保険局員をしつつ,

黙々と小説を書きました

御本人は極めて礼儀正しく,

無口な方だったそうです

 

ありえない設定から,  

人間の孤独感・不安・不条理を,まるで

夢を見ている時のように描き出す独特の手法は,

読む側に,自分の問題と直面し

逆説的な希望を見出す契機を与えてくれる小説

とも評されます

 

絵画で言いますと,

サルバドール・ダリにとても似た,

シュールレアリスティックな先駆的感性を感じます

 

ですが,

ただ単に「暗い」だけではありません

微笑ましいエピソードも残されています

 

ベルリン時代、カフカとドーラはシュテーグリッツ公園をよく散歩していたが、ある日ここで人形をなくして泣いている少女に出会った。カフカは少女を慰めるために「君のお人形はね、ちょっと旅行に出かけただけなんだ」と話し、翌日から少女のために毎日、「人形が旅先から送ってきた」手紙を書いた。この人形通信はカフカプラハに戻らざるを得なくなるまで何週間も続けられ、ベルリンを去る際にもカフカはその少女に一つの人形を手渡し、それが「長い旅の間に多少の変貌を遂げた」かつての人形なのだと説明することを忘れなかった。 

フランツ・カフカ - Wikipedia 参照

 

現在日本でやると問題視されてしまうだろう美談です

 

本日はこの,  稀有な光を放つ

小説家カフカの名言のいくつかを

ご紹介したいと思います

 (英文一部拙訳)

 

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 フランツ・カフカ

 

 

まず,「道」についてのコメントです

 

    There is a destination but no path;

    what we call path is hesitation.

    目的地はあるが道はない

    われわれが道と呼んでいるのは,

    ためらいに他ならない

 

……

「道」と言いますと努力の象徴で,

どちらかと言うと美化されやすいのですが,

カフカは「ためらい」に他ならないとします

 

『変身』然りですが,

カフカの小説に「意味」はほぼありません

 

かつて,  鶴見俊輔さんが

「無意味とは存在の肌触り」

と表現されていた記憶がありますが,

カフカはその存在の肌触りをえんえんと

訴え続けていた危険な作家だったと言い得ます

 

カフカにとって,

道はその肌触りそのものだったのかも知れません

 

    Where a person walked, there is a path.

    人が通ったところに,道は出来る

 

やや,ホッとしました

高村光太郎と同じくです… 

 

 

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Salvador Dalí: The Lacemaker (after Vermeer)

 

 

続きまして,「真実」についてです

 

   Life without truth is not possible.

   Truth is perhaps life itself.

   真実のない生というものはありえない

   真実とはおそらく,生そのものだろう

 

カフカにとってのリアル,

それは生そのものでした

 

   Anything that has real and lasting value

   is always a gift from within.

   リアルで永続的な価値をもつものは何であれ

   つねに内面からの贈り物である

 

外面世界にリアルはなく,

内面世界からリアルが湧く

つまり,

カフカにとっての生は,

はじめに内面ありきでした

 

唯識仏教心理学で言います,

「世界は汝の心のあらわれである」

という命題を想わせます

 

   Not everyone can see the truth,

   but the person can be it.

   誰もが真実を見ることができるとはいえない,

   しかし真実であることはできる

 

「であること」は,疑いようのない真です

パスカル

    第一原理は疑えない

と言いましたように…

 

真実を見ることができる,

つまり本当に悟りを開ける存在は,

人間界にはほぼいないでしょう

ですが,

「自分であること」だけは,

ゆるがせにできない

 

そこから

意味のある人生を送ろうと,

意味のない人生を送ろうと,

「であること」を離れて,

自分が自分ではありえないのです

 

 

   A cage went in search of a bird. 

   鳥かごが鳥を探しに出かけていった

 

 

気づけば透明な鳥かごに飼われていた,

と思う経験は日常茶飯事です

 

ですが,

いくら美しくても

捕獲されているうちははばたけません

 

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Salvador Dalí: Crucifixion (Corpus Hypercubus)

 

 

では,どうすれば,

その鳥かごを破壊できるのでしょう?

 

   A book must be the axe

   for the frozen sea inside us.

   本は我々の内なる

   凍った海のための斧にちがいない

 

カフカにとって,

自分を変えうるものは本でした

この点は,僭越ながら,小生も

同意させて頂きたいと思います

 

ここでは,

「内なる凍った海」=「透明な鳥かご」と

パラフレーズして頂きますと,

斧が手に入ります

 

     Many a book is like a key

     to unknown chambers

     within the castle of one’s own self.

    多くの本は,

    自分自身の城内の未知の部屋べやを開く

    鍵のようなものである

 

普段の自分が無意識になってしまっていることを,

文字にしてそっと置いてくれている本,

そうした本に出逢えることは

時間とお金にはかえられない

至福経験となります

 

そういった点からでしょうか,

カフカの読書論は,いささか,刺激的です

 

  I think we ought to read only the kind of books

  that wound and stab us

  私たちは自分を傷つけ刺すような本だけを

  読むべきではないかと僕は思っている

 

痛っ!

 

ですが,  

痛みを伴わない読書は

自分を変えてくれる心の糧とは言い難い

げすなものです

 

自分を慰めてくれるだけでおしまいの文字体験など

芭蕉は許してくれないでしょう

 

それまでの自分を一ミリだっていい,

破壊し再生につなげてくれるものでない限り,

「創造的読書」にはなりえません

 

三島由紀夫

「最高の芸術は最初は少し不快感を催す」

と言いましたが,

読書にも当てはまるココロだと思います

 

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Salvador Dalí: The Accommodations of Desire

 

 

次に,「悪」についての見解です

 

   There are two cardinal sins

   from which all others spring:

   Impatience and Laziness.

   人間には他のあらゆる罪悪が

   出てくる二つの根源的な罪悪がある

   短気と怠惰だ

 

短気は怒りです

怒りは身を滅ぼす,

と,徳川家康は言いました

(家康自身,まあまあ短気だったとか…)

 

確かに,

短気で得することはありません

短気は損気,

さらに正反対で怠惰であっても,

ことを成すことはできません

 

   The evil knows the good,

   but the good doesn’t know the evil.

   悪は善のことを知っているが,

   善は悪のことを知らず

 

影には太陽が見えますが,

太陽には影が見えません

全部照らしているからです

 

ここまで登って来ますと,

カフカの逆説的視点が

小気味いいほどになってきました

 

   To fear is to be unfortunate;

   therefore, to have courage is not to be fortunate,

   but not to have fear is to be fortunate.

   恐れをもつことは不幸だ

   それゆえに、勇気をもつことが幸せなのではなく,

   恐れをもたないことが幸せなのだ

 

勇気があるから幸せになれるわけではない

恐れを持たないことが幸せである

 

マーク・トウェインの名言が思い出されます

 

    勇気とは

    恐怖に抵抗することであり,

    恐怖を克服することであって,

    恐怖を抱かないことではない

 

tsuputon7.hatenablog.com

 

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Salvador Dalí: Study for "Vogue" cover

 

 

カフカ

凛と歌舞いてます…

 

人生の不条理と真っ向からぶつかり,

それを陶冶し吟味して,

小説にしたのですから,

当然かも知れません

 

ですが?

ポジティブな名言も発見できました

 

   Youth is happy

   because it has the capacity to see beauty.

   Anyone who keeps the ability to see beauty

   never grows old.

   青春が幸福なのは,

   美しいものを見る能力を備えているためです

   美しいものを見る能力を保っていれば,

   誰でも決して老いません

 

美は永遠です

美を見る能力があるということは,

永遠の子どもであるということです

 

先ほどの,

 

  リアルで永続的な価値をもつものは何であれ

  つねに内面からの贈り物である

 

と,

カフカの含意は一貫しています

 

大人になって汚れていく日常を深め,慣れ,諦めて,

次第しだいに美が見えなくなってしまいます

 

大人の欲に乗せた,かりそめの「美」の追求は,

モノ・カネの代償でしかありませんから,

邪なものです

 

カミュも言いましたように,

太陽や海はお金で買えませんから

 

ああ,

泥中の蓮たりたいものです…

 

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

 

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