tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識しこれに応じていくことである。(宮澤賢治)

f:id:tsuputon7:20180127152847j:plain

 

                                                           Jan.27.2018 

 

 

宮澤賢治は1896年,岩手県生まれの

詩人・童話作家・農学博士です

 

唯一の詩集『春と修羅』でデヴューし,

注文の多い料理店』,『雨ニモマケズ

銀河鉄道の夜』,『風の又三郎』など,

多数の詩や童話を残しました

 

また,現在の岩手大学農学部

農学博士号を取得していましたこともあり,

晩年は近隣の農家の方々に農業指導しながら

著作活動をしていました

 

37歳の若さで他界しました

没後,草野心平らの尽力で世に広まり,

絶大なる支持を今も受け続ける

日本を代表する詩人となりました

  

本日はこの宮澤賢治の,

宇宙をあまねくトリップし続ける名言を

いくつかご紹介したいと思います

(英文拙訳)


 

f:id:tsuputon7:20180127152751j:plain

 

f:id:tsuputon7:20180127152912j:plain

 

 

まずは,『銀河鉄道の夜』からです

 

    天の川のなかでたった一つの

    ほんたうのその切符を

    決しておまえはなくしてはいけない

    You must not lose the only real ticket

    in the Milky Way.

 

この童話の背景には,

賢治の若かりし頃からの

熱心な法華経信仰がありました

子どもたちにこのお経の世界のイメージを

なんとか伝えようと四苦八苦したと言います

 

「天の川のなかでたった一つのほんたうのその切符」

とは,おそらく万人の中にある仏性,

つまり「仏になる可能性」の象徴でした

 

自身の内奥にあるそのポテンシャルを

信じ続けなければならない,

天の川の中で唯一無二なのだから…

 

自己アイデンティティの可能性を

子どもたちに限りなく信じてほしい,という

切なる願いだったのでしょう

 

 

f:id:tsuputon7:20180127153036j:plain

 

 

 

続きまして,個人的にふとした折に脳裏をよぎる

フレーズを,『春と修羅』序の冒頭から…

 

    わたくしといふ現象は

    仮定された有機交流電燈のひとつの

    青い照明です

    The phenomenon ‘I’ is

    a blue one

    of the assumed organic AC lights. 

 

アニメ映画で絶賛されました

銀河鉄道の夜』のエンディングに,

このフレーズの朗読がされていました

そこに,小生が数十年来尊敬してやまない

細野晴臣氏の楽曲が相まって,

このシーンを見るだけで,

今でも柄にもなく号泣してしまいます…

 

映画館で見たときは高2だったのですが,

「わたくしといふ現象」という表現に初めて出くわし,

その夜眠れず,しばらく不眠症になりました

 

自分が肉体としての「もの」ではなくて,

現象としての「こと」だった,つまり,

3次元的存在ではなく4次元的存在だったのだと,

想念がループして止みませんでした

 

tsuputon7.hatenablog.com

f:id:tsuputon7:20180127153752j:plain

 

 

 

そして,やはり賢治が超時空的存在だったのでは,

とさえ思われるフレーズです

 

    みんながめいめい自分の神様が

    ほんたうの神さまだといふだらう。

    けれどもお互いほかの神さまを

    信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれるだらう。

    それから僕たちの心がいいとかわるいとか

    議論するだらう。

    そして勝負がつかないだらう。

    Everyone will say

    his or her own God is the real God.

    However, they will shed tears,

    seeing what the people of other Gods did.

    Then, they will argue

    that just theirs are good and the others are bad;

    so, the battle will be forever. 

 

……恐るべき先見の明です

現在のパレスチナ情勢といい,テロリズムといい,

賢治のことば通りの状況になっています…

 

「めいめい自分の神様」こそが

戦争や紛争の根源となっている

なのに,違う神さまを信じる人たちのしたことでも,

涙するくらい共感できる

また,なのに,自分たちの正当性を主張し議論して,

勝負がつかない…

 

すでに約1世紀近くも前に,

一流の国際政治アナリストのごとく,

現代世界を端的明瞭に解説してくれていました…

 

人間,国家の性を透徹した冷静な眼差しで

ぢっと見つめていたのでしょう

 

その上での賢治の切なる希望的ヴィジョンは

グローバルなものでした

 

   新たな時代は世界が

   一の意識になり

   生物と成る方向にある。  

    In the next generation,

    the world will be aiming at one consciousness

    and one organism.

 

ただし…

 

   自分が真実から目をそむけて

   子どもたちに本当のことが,語れるのか。

    How can you tell your children the real things,

    diverting your eyes from the truth?

 

嘘を本当だと信じ込ませようとする政治家

は無数にいます

本当のことを悟らせるために嘘をつくる詩人

とは真逆です

 

f:id:tsuputon7:20180127153848j:plain

 

 

賢治のメッセージは,

到底子どもにだけ向けたものとは思えません

「童話」という体裁を取りつつも,

そのターゲットは万人の内なる「童」,

超一流の芸術家が口を揃えて

命がけでその重要性を讃える,

「永遠の子ども」に

語りかけているものだと確信します

 

例えば,次のような倫理観です

 

    かなしみはちからに,

    欲ばりはいつくしみに,

    いかりは智慧にみちびかるべし。

    You should lead grief to power,

    greed to compassion,

    and anger to wisdom. 

 

煩悩を悟りへと昇華させるベクトルを,

「永遠の子ども」に諭しています

また…

 

    すべてあらゆるいきものはみんな気のいい,

    かあいさうなものである。

    けっして憎んではならん

    All the living creatures are generous,

    miserable things;

    so, you must not hate them.

 

「気のいい,かあいさうなもの」という

形容詞のえらびに,

賢治の慈愛あふれる主観が読み取られます 

 

tsuputon7.hatenablog.com

 

f:id:tsuputon7:20180127153933j:plain

 

 

最後に…

 

    正しく強く生きるとは

    銀河系を自らの中に意識し

    これに応じていくことだ

    Living truely and strongly is

    being conscious of the Galaxy within yourself

    and going accordingly. 

 

俗に言います「文系」と「理系」の

両要素が凝縮された倫理的至言です

 

ミクロコスモスの中にマクロコスモスを見出し,

マクロコスモスの中にミクロコスモス見いだす

 こうした照応関係は神秘主義の原理と言われます

 

賢治は自らの宇宙観の中で,

法華経を基とする壮大な構想を持っておりました

それは

私たちの内面世界が外面世界と相似形で

調和するものでなければならない,

そのためには自らの中の銀河系を

常に意識し続けることが必要だ

 

その銀河系は物理世界のすべてであり,

目の前にいる人も動植物も鉱物などの無生物でさえも,

森羅万象が自分の内にもある

 

銀河鉄道はこうした意味で,

生まれ出たときに切符を配られた

私たちひとりひとりの心の中で,

止まることなく,

がたんごとんと走り続けているのです

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

 

f:id:tsuputon7:20180127155359j:plain