tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語の名言:平和とは戦争のないことではない : 悪徳を非難するより美徳を教える方がよい(スピノザ)

f:id:tsuputon7:20171218081508j:plain

 

 

                                                           Dec.18.2017

 

バールーフ・デ・スピノザは,

オランダのレンズ磨き職人兼哲学者でした

 

デカルトライプニッツと並ぶ

17世紀近世合理主義哲学者として知られ,

汎神論を貫いてユダヤ教キリスト教とは

対立関係にありました

汎神論とは,

神=自然(人も含めた森羅万象)とし,

万物に神が内在すると考える立場です

 

またカント・ヘーゲルドイツ観念論

マルクスなど,その後の大陸哲学の系現代思想

多大な影響を与えた人物です

 

哲学畑の人たちからしますと,よく

いぶし銀のような玄人受けする哲学者として

知られています

代表作『エチカ』では「精神の幾何学」を唱え,

人間の内面世界を幾何学の証明のように語っていく

独自の試みをしました

 

本日はこのスピノザの名言のいくつかを

ご紹介したいと思います

 

 

f:id:tsuputon7:20171218081539j:plain

 

 

『エチカ』の語源は

古代ギリシャ語で「倫理観」を表す単語です

スピノザは哲学的命題の中でもとりわけ

倫理に関わるものを重視していました

15年かけたとされる著作のタイトルにもするほど,

倫理的関心は深かったようです

その一端を垣間見られるフレーズが,

平和についてのスピノザ流の定義を述べたものです

 

    Peace is not the absence of war;

    it is a virtue, a stability of mind,

    a disposition for benevolence,

    confidence and justice.

 

    平和とは戦争がないことではない

    それは美徳であり,精神の安定であり,

    親切であろうとする心がけであり,

    信であり正義である

 

とかく物騒な昨今の日本社会では,

「戦争がなければ平和なのに」

と思いがちです

いえ,

戦争と平和」という二項対立のみで考えるのが,

むしろ人類史を通じて

ごく普通の思考回路だったでしょう

 

ですが,スピノザ

平和を戦争の単なる反対概念だとは

考えていませんでした

彼は

 平和=美徳+精神の安定+親切心+信+正義

だとしています

つまり,

単なる外的・物理的次元の穏やかさではなくて,

内的・心的次元の積極的エネルギーを伴った何かだと

考えています

端的に言ってよろしければ,

スピノザのこのことばは,

平和とは受動的環境ではなく能動的姿勢だ,

と読み解けるのではないでしょうか

 

とかく政治・経済的世界は醜悪さに満ち満ちていて,

幼少期より阿呆呼ばわりされても戦争絶対反対の

ゆるゆる美学者を自負しております小生としましては,

スピノザのこの言には美的センスを感じてなりません

 

f:id:tsuputon7:20171218081646j:plain

 

 

続きまして,

仏教でも煩悩のひとつによく挙げられます

驕り=高慢についてスピノザはこう述べています

 

    Arrogance is pleasure

    arising from a man's thinking

    too highly of himself.

    高慢は人間が

    自身をあまりにも他より高く

    思うことから生じる喜びである

 

そのとおりです…

気がつけば,市場経済原理にほだされ,

小市民的な他者との比べあいから,

すぐに優越感を楽しみたくなってしまいます

ですが,

比較は悲惨を生みます

 

その悲惨を「喜んで」しまう自分もいます

こんな服はなかなかないだろう,

こんな車は珍しいだろう,

このアーティストを評価するのは自分だけだろう,

などなど…

 

「ひっひっひっ…」というこれらの思いが募り募れば,

気がつくと高慢のとりこになってしまいます…

 

元来の個性の発現としての自分ではなくて,

他者の否定の上にのみ成り立つ自分など

独善でしかありませんが…

 

f:id:tsuputon7:20171218081809j:plain

 

 

そして,昨今話題のアドラー心理学を彷彿とさせる

フレーズが…

 

    While I’m thinking I can’t do,

    when I don’t want to do that actually,

    I have my heart set.

    So that isn’t carried out.

    自分にできないと考えている間は,

    本当はそれをやりたくないので,

    そう思い込んでいるのだ

    だからそれは実行されはしない

 

やるならやる,やらないならやらない,

それだけであって,

できないという考えは,

やりたくないという思いの隠れ蓑で,

ていの良い言い訳だということでしょう

 

フロイトが登場し無意識を発見する200年ほども前に,

すでにここまで深層心理を見つめていたわけです

スピノザがレンズ磨きを生計のためにやっていた,

とするのは俗説で,実はその作業を通して

哲学的瞑想をしていたとされていることも,

なんとなくうなづける気がします

 

f:id:tsuputon7:20171218083631j:plain

 

 

職人哲学者とでもいうべき特異な彼は,

徹底して森羅万象に

神を見出そうとし続けたようです

その姿勢は近代合理主義の方法の礎ともなりました

それは運命論にも見て取れます

 

    Destiny is something to choose

    that which shouldn’t be accepted

    personally and produce.

    運命とは受け入れられるべきでないことを

    自ら選び創り出すものだ

 

つまり,

不本意なことでも自分で選んでしまって

創り出してしまう,それが運命だ,

ということになります

これはもはや,フロイト

私たちの行動のほとんどを無意識が支配している,

としました発言とパラレルに思えてなりません

 

そして,彼の倫理観を濃縮したかのように,

次のように促しています

 

    You might as well teach virtue as blame vice.

    悪徳を非難するより美徳を教える方がよい

 

悪徳に固執すると過去に囚われていますが,

美徳に期待を寄せると未来に向かえます

 

過去のトラウマに集中するのではなく,

今からくる未来の可能性にかけ教育する…

まさにアドラーのいう個人心理学のエッセンスと

そっくりに思われます

スピノザはここでも先ほどと同じく,

積極的な心的エネルギーで

美徳を教えるべきだとしています

 

戦争 vs 平和然り,

悪徳 vs 美徳然り,

これらを単純に対立させるのではなく,

その背景・深層に潜む神を見出そうとしつつ思索した

スピノザの独自の思考回路の一端に触れますと,

簡単に結論が出るはずもない難問に対してでさえ, 

善悪二元論のどちらかを

選ばないといけないかのような強迫観念に満ち,

やけに硬直化しつつある日本のマスコミ報道などの,

場当たり的な,哲学なき正義論にも

騙されずに済むかなあ,と,

ゆるゆると,視野がちょっぴり開けた気がしました

 

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

f:id:tsuputon7:20171218081852j:plain

tsuputon7.hatenablog.com

tsuputon7.hatenablog.com