tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語の名言:人は自分の臓器に服従する知的存在だ(オルダス・ハクスリィ)

 f:id:tsuputon7:20180710154423j:plain

ホアン・ミロ『無題』

 

                                               July.10.2018

 

 

オルダス・ハクスリィは,1894年,

イギリス生まれの著作家です

 

小説では

『道化芝居』『すばらしい新世界』,

エッセイでは

『知覚の扉』『天国と地獄』などの

代表作があります

 

個人的には,

古今東西の哲学者・宗教家らのことばを

連鎖させ,ハクスリィ独自の解釈で

人類が脈々と伝えてきた思想系譜を

あぶり出そうと模索した

『永遠の哲学』に,

学生時代とても感激しました

 

とりあえず無知ななりにも,

ハクスリィのガイドによって

思想史の概略がつかめたという,

素敵な思い込みをさせてくれた名著です

 

f:id:tsuputon7:20180710135506j:plain

 

本日はこの,オルダス・ハクスリィに

当時の感謝の意を表すべく,

名言のいくつかをご紹介したいと思います

和文拙訳)

オルダス・ハクスリー - Wikipedia参照

f:id:tsuputon7:20180710135620j:plain

 

 

まずは,

人間の可能性についてのコメントです

 

There is only one corner of the universe

you can be certain of improving,

and that's your own self.

あなたが改善できると確信できる

世界で唯一のささやかな場所がある,

それはあなた自身だ

現状よりもより良い世界を作るには

どうすれば良いのか,

という議論が,毎日のように

ネットやテレビなどで議論されています

ですが,

ハクスリィは,自分自身のことしか

人は結局確信持って変えられないのだ

と言います

 

世の中を変えようとばかりするのは

自分を変えられない人だということは,

様々な偉人たちが異口同音に

語ってきたことです

 

自分を変えられない理由の一つは…

 

Most human beings have

an almost infinite capacity

for taking things for granted.

ほとんどの人間は

ものごとを当然のことと思う

ほぼ無限の能力がある

日常を「日常」とだけしか思わないことが,

社会通念としてまかり通っています

日常に非日常を見てしまいますと,

社会適応しづらいものです

 

ものごとの状況は当然あるべくして

起こっている…

 

そこで当然とは思わない人々が

芸術,哲学,宗教,科学,スポーツなど

諸領域での天才ということになるのでしょう

 

f:id:tsuputon7:20180710153340j:plain


 

続きまして,

人と歴史の関係についてです

 

That men do not learn very much

from the lessons of history is

the most important

of all the lessons of history.

人は歴史の教訓から

あまり学ばないということは,

あらゆる歴史の教訓の中で

最も重要なものだ

言い得て妙です

 

もし人が歴史の教訓を

余すことなく学んできていたら,

とっくにこの地上に理想郷状態が

実現していたことでしょう

 

ですが現実は,

「歴史は繰り返す」

のです

 

ではなぜ,人は戦争するのでしょうか?

 

The quality of moral behavior

varies in inverse ratio to the number

of human beings involved.

道徳的行為の質は

それに関係した人の数に反比例して

様々になる

 

つまり,

大多数の人々が一斉に「道徳的」だと

みんな似たような行為をし,

一人一人が道徳的だと,

その人独自の行為をする,

ということになります

 

ここが倫理の難しいところです

 

善は微に入り細に入りなされねばならない

 

と,イギリスの詩人ウィリアム・ブレイク

言いました

 

善は個人的です

偽善は集団的です 

 

Maybe this world is another planet's hell.

たぶんこの世界は他の惑星の地獄だ

 

tsuputon7.hatenablog.com

f:id:tsuputon7:20180710153444j:plain

ホアン・ミロ『無題』

 

 

ハクスリィは絵画論を書くなど,

芸術に対する造詣も深い人でした

その美学は独特です

 

Beauty is worse than wine,

it intoxicates

both the holder and beholder.

美はワインよりも悪い,

というのも美は

作者も鑑賞者も両方酔わせるからだ

美に酔う…

 

たしかにワインなら,

飲み手は酔いますが,

ソムリエは酔いません

 

そして芸術家と苦しみについては…

 

Perhaps it's good for one to suffer.

Can an artist do anything if he's happy?

Would he ever want to do anything?

What is art, after all,

but a protest against

the horrible inclemencyof life?

おそらく,人にとって苦しむのは良いことだ

芸術家が幸せだったら,

何かできることなどあるだろうか?

彼は本当に何であれ,

やりたいことがあるだろうか?

結局,人生の恐るべき酷寒に

抵抗しないのなら,

芸術とは何なのだろう?

真の芸術家は生の極北で独り,

命を削って作品を生みます

 

美はどこか,何でだか,悲しいのですね

 

棟方志功は言いました

芸術家は人類の涙をそっと拭く人です

 

tsuputon7.hatenablog.com

 

また,

ソクラテスは真・善・美のうち,

美は真理の完成だと言いました

 

つまり,美を生むには

人間としての限界値が

要求されるのです

 

f:id:tsuputon7:20180710153610j:plain

 

 

ハクスリィは,ユーモア混じりの名言も

多く残しています

 

A man may be a pessimistic determinist

before lunch and an optimistic believer

in the will's freedom after it.

人は昼食の前は悲観的決定論者で,

その後では意志の自由を奉じる

楽観的信者になるものだ

 

血糖値上がりますから…

 

また,ことばについては…

 

Words, words, words!

They shut one off from the universe.

Three quarters of the time

one's never in contact with things,

only with the beastly words

that stand for them.

ことば,ことば,ことば!

ことばは世界から人を切り離す

自分の時間の四分の三を,

人はものごとに接するのではなく,

ものごとを表す

ケダモノのようなことばに接している

 

気づけば,

ものごとそのものに関わる以前に,

私たちはことばで

自己制御してしまっています

ハクスリィ曰くその時間は実に

ものごとに関わっている時間の三倍だと…

彼の活躍した約1世紀前で三倍ですから,

情報革命後の今となっては,

十倍以上でしょうか…

 

 

f:id:tsuputon7:20180710153757j:plain

 L'oiseau solaire l'oiseau lunaire etc.

 

 

ハクスリィは

私たちのアイデンティティを,

医学的に次のように定義しています

 

Man is an intelligence

in servitude to his organs.

人は自分の臓器に服従する

知的存在だ

また,

 

What we feel and think and are

is to a great extent determined

by the state

of our ductless glands and viscera.

私たちが感じ考えることや今の自分は,

管のない腺や内臓の状態によって

相当程度決定されている

英語で「直感」は intuition ですが,

別の言い方で gut があります

これは「内臓」を意味する語でありながら,

私たちの理性を経ない直接知覚も表すのです

 

生きている以上避けられない

この「内臓感覚」こそが,

私たちのアイデンティティ

根幹をなしていると言っても,

過言ではありません

 

身体性が希薄になり,

電車でお互いにぶつかっても

謝ることでさえ「不自然」なくらい

記号化してしまった

アイデンティティの行方は…

と思いつつ日々過ごしているのですが,

起きて食べて寝る以上,

ハクスレィの指摘の輝きは

消えることはないでしょう

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

 

f:id:tsuputon7:20180710154150j:plain

ホアン・ミロ『ポテト』