March.12.2018
思想家です
深く関わられた方です
小生の学生時代の美学の恩師で,
折にふれてこう仰っる先生がおられました
自分を笑う哲学を構築なさいね
後々分かったことですが,
先生はこのことばを岡倉天心の著作から
学ばれたようです
自分を笑うこと
当時,専らニーチェの実存哲学や仏教哲学にばかり
触れていました小生は,
今考えますと「とげ」だらけで,
尾崎豊の歌う
「触れたもの全部を傷つけ」るかのような
青々しさでした
ようやく今,
あの頃の自分を腹を抱えて笑えるくらいに
なって来ています
視野が狭いのに,
見えるものが全世界であるかの如く
振る舞う浅はかさ
自我という透明な鳥かごの中で,
大空に羽ばたいてやると意気込み続け,
自らを傷つけるしかできなかったあの頃
それを本気で笑える様になってきて,
あの時の先生は時空を見越して
ああ言っておられたのだと思いますと,
感謝の念しか湧きません
本日はこの,岡倉天心の
名言のいくつかをご紹介したいと思います
(英文拙訳)
まずは,茶道がいかに日本文化に浸透しているかを
天心が語っているフレーズです
私たち日本人の住居、習慣、
衣服や料理、陶磁器、漆器、
絵画、そして文学にいたるまで、
すべて茶道の影響を受けていないものはない
There is nothing in Japan but has been influenced
by the tea ceremony, such as the houses,
customs, clothes or cuisines, chinas, japans,
paintings, and literatures.
確かに,そう言われてみますと,
茶室は日本文化が凝縮されたミクロコズモスです
人と自然との絶妙なバランス・ポイントを
象徴的に具現する,多次元装置です
では,その茶道の本質とは…
茶道の本質は、不完全ということの崇拝、
物事には完全などということはないということを
畏敬の念をもって受け入れ、処することにある
The essence of the tea ceremony is the worship
for imperfection, the attitude that deals with things
on the ground that things aren’t perfect
and is awful for the very fact.
天心のことばを見ておりますと,
至る所で「不完全」という表現が出てきます
これには「完全」ではあり得なかった自分自身を
「笑う」精神と通底する,
禅由来の宇宙観が反映されています
本当の美しさは、
不完全を心の中で完成させた人だけが
見出すことができる
The real beauty can be found
by those who have completed the imperfection
in the spirit.
高台寺遺芳庵
続きまして,これぞ日本の美学の粋とさえ
思われますコメントです
見せびらかすのではなくて、ほのめかすといふこと、
これが、無限なるものの秘訣なのだ
It is not showing but implying
that is the recipe of the infinite.
ほのめかしの美学
振動し続ける国際社会の中で,
とかく日本の「あいまいさ」は誤解を招いてきました
そのネガティブな側面ばかりが取り上げられ,
批判の的となって,始終日本人がペコペコする…
ですが,個人的には「わびさび」に代表されます
「察する心」こそ,日本人にしか持ててこなかった
何かであり,天心が言う「ほのめかし」であって,
今後,芸術を始めさまざまな分野で,
誤解を恐れず世界進出して欲しいと切に願う
美的価値です
天心からしますと,
こうした心的態度は「この世のドラマ」を成功させる
秘訣でもあるのですから…
物事のバランスを保ち、
自分の位置は確保しながら
他人にも譲るというのが
この世のドラマを成功させる
秘訣なのだ
To keep the balance of the things
and concede the place to others
while preserving your own
is the recipe that makes the drama
of this world a success.
とはいえ,
天心は伝統に固執するだけではありません
芸術は、その時代の暮らしに
ぴったりとしたものであって初めて
本当に理解されるものなのだ
The art is really understood
only when it is fit
to the lifestyle of the time.
非常に柔軟な考え方です
通じるものがあります
明治維新の五年前に生まれ,
明治初期の「文明開化」の一翼を担った天心の,
自由奔放な哲学が垣間見られます
名言がありました
人生にせよ、芸術にせよ、
これからさらに成長していく可能性があればこそ
生き生きしたものとなるのだ
Whether it may be life or art,
it will be alive only if it has the possibility
of growing more from now on.
茶道を核とする思想の背景には,
「動」の論理がありました
変化こそ唯一の永遠である
It is change that is the only eternity.
また,芸術を宗教との対比でこう描写しています
宗教は未来を後ろ盾としているが、
芸術では現在こそが永遠なのである
Religion is founded on the basis of the future,
while in the art, the very present is the eternal.
まさしく,「永遠の今」です!
芸術は,バクハツです
「永遠の子ども」が「永遠の今」に無目的に炸裂させ,
生成し続けるイノチであり,あそびであり,
過去や未来の呪縛下にある何かではありません
そして,
一世紀以上前の私たちの誇るべき先達・天心が,
奇しくも美や芸術に対するコメントの狭間に,
醜の深淵をちらりと見てしまった時,
思わずぽろっと宣うたのだろうと思われます
ことばが…
われわれが文明国たるためには、
血なまぐさい戦争の名誉によらなければならない
とするならば、
むしろいつまでも野蛮国に甘んじよう
If, in order to make ours a civilized country,
we have to depend on the honor
of the bloody wars,
she will rather remain a barbarous one forever.
Shinzou に天心の声が届きますよう!
と言いますのも,
天心はこんな至言まで残すほど,
天真爛漫な方だったのですから…
美しいものとともに生きてきた人だけが
美しく死ぬことができる
Those who have lived along with the beautiful
can live beautifully.
それでは,このへんで