tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語の名言:もし私が犬よりも猫が好きだというのなら,それは警察猫というものがいないからである(ジャン・コクトー)

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ジャン・コクトー 『ねこの引き出し』

                                                    Jan.20.2018 

 

 

ジャン・コクトーは1889年,

フランスのパリ郊外に生まれた詩人です

あのピカソが嫉妬した才能の持ち主とさえ言われます

 

詩人以外に

小説家,劇作家,画家,評論家,映画監督,脚本家

の肩書きも持っていました

 

代表作は『恐るべき子供たち』です

かの『美女と野獣』を映画化もしています

1917年にはピカソエリック・サティと共に

『パラード』という舞台演出も行いました

 

本日は,このマルチな芸術的才能に溢れた

奇才ジャン・コクトー

エスプリ=機知満載の英訳名言を

いくつかご紹介したいと思います

※以降作者名のない絵はすべてコクトー作です

 

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ジャン・コクトー

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ピカソと語り合うコクトー

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ピカソコクトーに宛てた手紙

会えなくてとても寂しい,と訴えてます…

 

 

まずはコクトーの美学から…

 

   The poet is a liar who always speaks the truth.

   詩人はつねに真実を語る嘘つきである

 

あれ…どこかで聞き覚えのある感じだ

と思っていましたら,ピカソのことばでした

 

   Art is the lie that enables us to realize the truth.

   芸術とはわれわれに真実を悟らせてくれる嘘である

 

卵が先か鶏が先かの議論は別として,

ともかくお二人は近い美学をお持ちだったようです

 

嘘による真実の覚醒こそが詩であり芸術である

 

それをことばを替えて,

コクトーは次のようにも述べています

 

    Art is a marriage

    of the conscious and the unconscious.

    芸術は意識と無意識の結婚である

 

フランス人はよく,食事とワインがうまくあった時に

「マリアージュ」(結婚)と言います

コクトーは,このしゃれた言い回しから見ますに,

意識=嘘/無意識=真実という感覚で

芸術を捉えていたのでしょう

 

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『テアトルシリーズ』

 

美そのものにつきましては…

 

    Hasten slowly.

    Run faster than beauty.

    ゆっくり急げ

    美よりも速く走れ

 

「美より速く」にノックアウトされました!

美に速度があるという感性…

 

ゆっくり急ぐ,

この論理破綻の上に,

ことばとことばの衝突実験の先に,

何かを伝える

ポエジー(詩性)溢れることばの場を

見事に演出しています

 

Beauty cannot be recognized with a cursory glance. 

  美はざっと見てもわからない

 

速度があるので,走らないと美はわからないのです

 

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『サン・ピエールを解放する天使』

 

続きまして,芸術家については…

 

   An artist cannot speak about his art

   any more than a plant can discuss horticulture.

   芸術家は自分の芸術について語ることはできない

   植物が園芸を語れないように

 

植物:園芸 ≒ 芸術家:自分の芸術

こうした比例関係を思いつく自体,

やんごとなきセンスが感じられます

 

そのセンスの極みと小生が思いますフレーズが…

 

    If I prefer cats to dogs,

    it’s only because there are no police cats.

    もし私が犬よりも猫が好きだというのなら,

    それは警察猫というものがいないからである

 

警察猫!

いない!

でも,それが理由で,猫が好き…

 

コクトーは猫が大好きだったようです

さまざま猫の絵を描いてます

トップ画もそうですが,次のようなものもあります

 

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『ねこ』

 

    I love cats because I enjoy my home;

    and little by little,

    they become its visible soul.

    私が猫好きなのは家で過ごす方が好きだからだ

    だから少しずつ,

    猫が目に見える家の魂に思えてくる

 

環境と一体化する猫…

家の魂としての猫…

たしかに,犬には出来ないことです

 

現在日本では「ネコノミクス」と言われるほどに

空前のネコブームですが,

家で過ごす時間の長い方が増えているのでしょうか…

 

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『ねこの引き出し』

 

 

コクトーは発想自体が

芸術そのものと言って良いタイプの人だと思います

 

詩が芸術の極みだとする美学者も多いです

コクトーを見ておりますと,

さまざまな芸術に関わっていながらも

そのエスプリが詩性に濃縮されていて,

ただそれを手段を変えて表現しただけ,

という感が否めません

 

そのセンスは時に卓抜なアイロニーも生みました

 

   We must believe in luck.

   For how else can we explain

   the success of those we don’t like?

   運を信じるしかない

  というのも,そうでなければ

  気にくわない人たちの成功をどう説明できるだろうか

 

仰る通りです!

「気にくわない人たち」こそ

強運だったりするものです,

短期的には…

 

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モディリアーニジャン・コクトーの肖像』

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 リトグラフ

 

また,コクトーピカソ同様,

「永遠の子ども」を自覚していました

 

    We shelter an angel within us.

    We must be the guardians of that angel.

    我たちは自分の内に天使をかくまっている

    我たちはその天使の保護者でなくてはならない

 

「天使の保護者」として人がみんな生きていかれたら,

争いごとはほぼなくなることでしょう

中には堕天使ルシファもいるでしょうから,

「ほぼ」だと思いますが…

 

現にコクトー自身,

天使の保護者としてユーモアを大切にする人でした

 

    Fight any instinct to be humorless,

    for humorlessness is the worst of all absurdities.

    ユーモアを失わないように戦うのだ

    というのもユーモアの欠如は愚の骨頂だからだ

 

天使はユーモアにあふれているものです

天真爛漫に遊んでいる時の子どもは

ユーモアそのものです「永遠の今・ここ」の

永遠の歓喜に包まれて生きる

 

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『青い天使』

 

人生に関して,

コクトーは実に不思議なコメントを残しています

 

    Life is a horizontal fall.

    人生は水平な滝である

 

彼にとって人生は重力の法則は適用されません

もはや時空間を超えた想像世界こそ,

コクトーにとっては現実だったのかも知れません

 

   The poet will recollect the future.

    詩人は未来を回想する

 

もうこれは,超時空宣言です

 

未来を思い出す

過去を予期する

 

もしも重力の束縛を受けない天使を

私たちが本当にかくまっていて,

彼らに芸術表現をしてもらえたのならば,

畢竟,時空間を超えて見聞きするものを

詩や絵や音楽にしてくれることでしょう

 

芸術家とはその内なる天使に

気づかせてくれる存在のことだと思います

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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『おかしな家族』