tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:自然に還れ。(ルソー)

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                                                  April.23.2018

 

 

ジャン=ジャック・ルソーは,1712年,

現在スイスのジュネーヴ生まれの

哲学者です

 

不遇な幼少期を過ごし,

16歳の時には約1年間,

放浪生活をしました

その彼をカトリック司祭ボンヴェールが保護して,

貴婦人ヴァランス夫人のもとで暮らせるよう

手はずを整えてくれました

 

その後も放浪生活を繰り返しましたが,

20歳の時,ヴァランスの愛人になり,

その庇護のもとで,哲学や科学の

読書に耽る日々を送りました

 

その後パリの社交界などで様々な著作を発表,

名声を勝ち得ました

 

1762年,50歳のときに『社会契約論』を出版,

同年,教育論『エミール』が世に出ると,

その自然宗教的な内容から

パリ大学神学部から断罪され,

禁書に指定され,逮捕状が出たため,

ルソーはスイスに亡命しました

 

その後,偽名を使ってフランスに戻り,

自叙伝『告白』を執筆しました

 

彼以前の社会通念が君主主権のフランスで,

ルソーの人民にこそ主権が存するという

人民主権」の概念がフランス革命に影響を与え,

その後の世界の民主主義に

決定的な方向性を与えました

 

本日はこの,「近代民主主義の父」

ジャン=ジャック・ルソーの名言を

いくつかご紹介したいと思います 

ジャン=ジャック・ルソー - Wikipedia参照

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まずは,「生きる」とは…

 

Living is not breathing but doing.

生きるとは呼吸することではなく行動することだ。

 

ルソーはニュートンデカルトパラダイム

科学主義と資本主義を押し進める中,

「個」の概念を確立することが

一般民衆にとって不可欠だと考えました

それまでの王政をはじめとする君主政治では,

万人が万人,「個」を確立して生きていくことは

できませんでした

 

では,どうしたら「個」になれるのか?

ルソーの答えはただ生きて「呼吸すること」ではなく,

「行動すること」でした

 

この発想が,フランス革命を実現する時の

一般民衆の「デモ行進」の源流とも言い得るでしょう

 

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tsuputon7.hatenablog.com

 

フランス革命は,言うまでもなく,

ブルジョワ支配体制からの自由を求める民衆による

転覆でした

この「自由」こそ,ルソー哲学のキーワードです

  

Man is born free,

and everywhere he is in chains.

Those who think themselves the masters of others

are indeed greater slaves than they.

人間は生まれながらにして自由である。

しかし、いたるところで鎖につながれている。

自分こそが他者の主人だと思っている人も、

実はその他者よりもっと奴隷である。

 

支配する者は支配される

なぜなら人はみな,生まれながらに自由であり,

根本的にある人を支配することなど不可能だからです

 

例えばルソーは,

お金について次のように述べています

  

The money that we possess

is the instrument of liberty,

that which we lack and strive to obtain

is the instrument of slavery.

持っている金は、

自由への手段であり、

求めている金とは、

隷属への手段である。

 

所持金は私たちに,

その範囲内での交換の自由を与えてくれます

一方,未所持金は枯渇感や貪欲を生むばかりで,

私たちを感情の奴隷になり下げます

 

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他人に真似できないほど怒涛の人生を歩んだルソーは,

必然的に鋭い人間観察眼を備えた人物となりました

 

People who know little are usually great talkers,

while men who know much say little.

ものを知らない人はたいていよくしゃべり、

よく知っている人はあまりしゃべらない。

 

現代日本などの超情報化社会では

むしろ逆のように聞こえますが,

ルソーの言います,

「もの」=「有意義なこと」と捉えますと,

一理ある話です

 

 

情報には,消費されるものとされないものがあります

 

消費される情報は表層的な価値しか持たず,

人々はそれを一度見聞して捨て去ります

ですが,消費されない情報は,

深層を備えた価値を持っていて,

その深みを感じることでエネルギーを貰えるからこそ,

人々は一度ならずそれに繰り返し触れたがります

そしてその反復が,いつしか

その人の生きる知恵にまで熟成されていくのです

 

ルソー の慧眼は,

有益なことを語る人はことば数が少ないということを,

いみじくも看破していたのです

また別な表現で,「信頼できる人」のことを

こう言い表しています

 

He who is most slow in making a promise

is the most faithful in performance of it.  

気軽に約束しない人は、

もっとも誠実に約束を守る。

 

軽薄な人とは,

ことば巧みにすぐ約束して,

実行しない人のことです

 

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tsuputon7.hatenablog.com

 

そしてルソーは,「最も長生きした人」について,

興味深い考え方をしていました

 

The person who has lived the most

is not the one who has lived the longest,

but the one with the richest experiences.

最も長生きした人間とは、

最も年を経た人間のことではなく、

最も人生を楽しんだ人間のことである。

 

当時は産業革命後の近代資本主義が

加速度的に発展していった時代であり,

それまでの技術では不可能だった

大量生産が可能になり,

人々の価値観が「質より量」に

大きくシフトしていた時代でした

 

そうした中でのルソーのこの発言は,

「量より質」の高い人生を送った人,

「最も人生を楽しんだ人」を賛美しています

 

現在,リアルタイムで

日本では「働き方改革」が喧伝されていますが,

それは「労働」を「労働」と思っているレベルの

「改革」でしかありません

 

「最も長生きした人」になるには,

「最も人生を楽しむ」必要があります

 

Take the course opposite to custom

and you will almost always do well.

慣習とは反対の道を行けば、

ほとんど物事はうまくいくものだ。

 

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ルソーの思想の魅力は,

机上の空論の哲学ではなく,

生活感覚に基づいた,

身体性溢れる感性の美学であることにあります

 

Conscience is the voice of the soul;

the passions are the voice of the body.

良心は精神の声であり、

情熱は肉体の声である。

 

とりわけ西洋の哲学者がおざなりにしがちだった

身体性を確保した上での思想だと直観できます

その感覚は「自由」を追求した上での

「自然」回帰を志向したものでした

 

仏語の自然 nature は,私たちの人体も含めた

「生まれつき」や「本性」という意味も含みます

人為の及ぶ以前の世界全てを指す語です

 

 

You are lost if you forget

that the fruits of the earth belong to all

and the earth to no one!

大地の果実は万人のものだが、

大地はだれのものでもないことを忘れるなら、

身を滅ぼすぞ!

 

カトリックの迫害を受けた理由がよく分かる発言です

人間中心主義のカトリシズムからしまして,

ルソーの自然回帰思考は

正反対のベクトルを持つものでした

「大地の果実」はもちろん,

「大地」そのものも,被造物の長である人間が

自由に利用して良いとするカトリック教会は,

ルソーを逮捕しようとさえしましたが,

彼はスイスに逃げました

 

そこには人間より自然の力の優位性を

強調する考えがあったからです

  

Nature never deceives us;

it is always we who deceive ourselves.

自然は決して我々を欺かない。

我々自身を欺くのは常に我々である。

 

もはや,西洋の老子です

無為自然」,

人の作為など無くし,

自然に身を委ねよ…

 

西洋の哲学者として,

環境に積極的に言及した稀有な思想家,

ルソー

 

その稀有さをシンボリックに表す至言は,

極めてシンプルなこの名言でした

 

Back to Nature.

自然に還れ

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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