tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:忘れるにまかせるということが, 結局最も美しく思い出すということなんだ。(川端康成)

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               Feb.1.2018 

 

 

川端康成は1899年,大阪市北区天満橋生まれの

小説家です

伊豆の踊り子』『雪国』

眠れる美女』『古都』など,

数々の名作を世に残しています

 

1968年には日本人としては初めて

ノーベル文学賞を受賞しています

受賞理由は

「 日本人の心の精髄を,

すぐれた感受性をもって表現,

世界の人々に深い感銘を与えたため」です

 

美文体とも言われるその筆致は,

漢字とひらがなの見映えまで緻密に

考え上げられた末のものだった

と言われます

 

本日はこの,川端康成のビロードのような

しなやかで美学満載の名言を,

いくつかご紹介したいと思います

 

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川端康成 

 

 

まずは,自身で自身の文学を

評したフレーズからです

 

    自分は「怠け者」であり,

    川端文学は

   怠け者の文学」である。

    I’m a ‘lazy person’,

    So, the literature of Kawabata is

    ‘the literature of a lazy person’.

 

たしかに康成の作品を読んでおりますと,

「スローモーション」のイメージが全体に漂います

たとえば,あの,あまりにも有名な冒頭部分…

 

   国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

   夜の底が白くなった。

 

この段階で,読んだ瞬間に

催眠術にかけられてしまいます

 

トンネルのこちらが私たちの日常世界だとしますと,

抜けた先はもう非日常,

これがたった1行で表現されているのです

 

そして,謎めいた「夜の底」…

それが白くなったとする真意は

誰にも分かるはずがない,

と叫んだ国語の先生がいらっしゃいました…

 

ご自身は自虐めいて「怠け者」と仰いますが,

小生が思いますには,

それは世間の時空間のスピードを康成の意識で

スローにしていますという,美学宣言です

 

    誰にもかれにも,

    同じ時間が流れていると思うのは間違いだ。

    It’s wrong to think

    that the same time flows through everybody.

 

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 昨夜の皆既月食の始まり:なんだか『雪国』に通じるトンネルのように見えました

 

 

康成の文学の一貫した特徴は

繊細にして華麗

だと言われます

 

小さなことに多大な意識を注入するのです

 

  ささいなことが私たちを慰めるのは,

  ささいなことが私たちを悩ますからだ。

  The reason why trifle things console us

  is that they annoy us.

 

日本が世界に誇る,「ものづくり」の世界,

職人の匠の心境に近いことばじゃないかな,

と思います

 

小さなものと対峙した,たった一人の自分

その全存在が,対象との格闘を経て

美的境地にまで昇華される,

それが職人の日常です

 

康成の繊細の精神のきらめきは,

「ささいなこと」を「些細な事」と

漢字に収めない言霊にも宿っている気がします

 

 

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康成は花についてこんなコメントを残しています

  

    一輪の花は百輪の花よりも

    はなやかさを思わせるのです。

     A flower makes me feel

     more gorgeous than a hundred flowers. 

 

小さきものの美しさを愛でるやさしい感性

それでこそ,量より質を看破しえます

 

    一輪の花美しくあらば,

    われもまた生きてあらん。

    If a flower is beautiful,

    I’ll still live.

 

一本の花の美がいのちを鼓舞する…

 

    どんな花かて,見る時と場所とで,

    胸にしみることがあるもんや。

    Whatever flower will move me,

    when and where it is appropriate.

 

あ,康成は大阪人でしたから…

 

同郷人として他の都道府県のみなさまに

申し上げたいのですが,

「じつは」 大阪人は細かいですよ!

こんな素敵なアドヴァイスさえしますし…

 

    別れる男に,花の名を一つ教えておきなさい。

    花は毎年必ず咲きます。

    Tell your leaving man a name of a flower;

    it must bloom once a year.

 

 

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教育に関して,康成は次のように苦言を呈しています

 

    日本の子供には,もっと孤独を教えないと,

    思想は生まれませんね

     If we don’t teach children what solitude is more,

    there won’t be a thought.

 

康成は戦前・戦後に渡って活躍した作家でした

戦後復興から所得倍増計画を経て,

高度経済成長期に入ろうとする日本社会の中にあって,

社会原理に没個性化していくだけの,

「灰色の服を着た時間泥棒」(ミヒャエル・エンデ

に成り果てて行く子どもたちを

見るに見かねて言ったことばでしょう

 

私見ですが,

現在SNSなどの普及で「孤独な若者」が激増している,

と,連日マスコミが喧伝しています

 

ですが,彼らの「孤独」に個性がないのが

ちょっと恐ろしいのです

 

康成の言う孤独は,無比較な「単独」のことで,

現代の若者の相互監視下の「孤立」ではないでしょう

画一的に顔を持たない孤立者から

思想など生まれようがありません

 

 

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老いに繋がると思われますメッセージを

康成は次のように残しています

 

  四十歳五十歳という風に、

  十を境にして生涯を区切ることは、

  一種の便宜であり感傷であって、

  半ばは人間の緩怠の性癖に過ぎないだろう。

   To separate our life by a decade, like 40, or 50,

   is one sort of convenience and sentiment;

   mostly, it may be only our tendency

   to be loose and lazy.

 

康成は岡本太郎氏と友好関係にありました

太郎氏を鎌倉の自宅に

居候させていた時期さえあるほどでした

その太郎氏もこう述べておられました

 

   年とともに若くなっていくのが

   自分でわかるね。

 

このお二人の何気ない会話は,

一体どんなレベルまで行ってたことでしょう…

少なくとも時間と重力の束縛からは解放される

ベクトル志向だったに相違ありません

 

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岡本太郎『若い夢』

 

 

康成もまた,

時空間を俯瞰して見る意識を志向した

作家だったと言えるでしょう

 

時が解決してくれること,

いろいろとあります

 

  忘れるにまかせるということが,

  結局最も美しく思い出すということなんだ。

  To let things be forgotten is,

  after all, to remember them most beautifully.

 

この,川端文学を貫く,「怠け者」美学の極致…

ですがこれこそが,

あんがい凄腕カウンセラーの代理とも言い得る

美的価値の充溢した至言だと思われます

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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