July.22.2018
水木しげるさんは，1922年，
『悪魔くん』などの代表作があります
漫画と妖怪文化への貢献が讃えられ，
1991年には紫綬褒章を，
2003年には旭日小綬章を，
受賞されておられます
実は，
たまたま今朝，寝坊気味に起きて
テレビをつけましたら，
「現代版」ゲゲゲの鬼太郎の
アニメをやっていました
小生が幼少期に釘付けになって
見ておりましたヴァージョンは，
端々にオドロオドロしさに満ちた中で，
さらに妖怪が入り乱れる，
というものでしたが，
「現代版」は一言で言いますと，
ストーリーのカオスさは
維持されているものの，
昔の闇が「除菌」された印象を
ぬぐえませんでした…
妖怪も「情報化」された感じがします
たとえば，今調べましたところ，
ネットで騒然となっているようですが，
猫娘などは，昔は…
今は…
このお二人が同一キャラクターです
これ以上はエポケー（判断停止）
させて頂きます…
ともかく今朝，このアニメを見て，
水木さんは何を考えて
暮らしておられたんだろう？
という疑問が，
自然と湧いて来ました
そこで，
本日はこの，水木しげるさんの
名言のいくつかをご紹介したいと思います
（英文拙訳）
まずは，
日本経済新聞に掲載されました，
「水木さんの幸福論」
で語られておられた「幸福の七ケ条」です
幸福の七ヶ条
第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、
ことを行ってはいけない。
第二条 しないではいられないことを
し続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、
あくまで自分の楽しさを追及すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、
努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 怠け者になりなさい。
第七条 目に見えない世界を信じる。
1. Never do anything
for the purpose of success, honor,
or winning.
2. Do continue what you can’t live
without doing.
3. You should pursue the pleasure
of your own, not comparing it
with others’.
4. Believe in the power of your favorites.
5. The talent and the income are different;
so, bear in mind the efforts will
betray you.
6. Be lazy.
7. Believe in the invisible world.
水木さんは，
幸福な人・不幸な人を観察して
どうすれば幸福になれるのかを考える，
幸福観察学会を
設立されておられましたが，
会員は水木さんお一人で，
増やされたことはありませんでした
この七ケ条を拝見しますと，
日常生活で凝り固まった全身のネジが，
一つ一つ緩んでいく気がします
間違いなく水木さんの場合，
「脱力が能力」だったのでしょう
不幸な顔をした人たちは、
「成功しなかったら、人生はおしまい」
と決め込んでいるのかもしれないね。
成功しなくてもいいんです。
全身全霊で打込めることを探しなさい。
Those who have unhappy expressions
may have determined,
“If I don’t succeed, my life will be over.”;
you don’t have to succeed.
Do find what you can really
devote yourself to.
水木さんならではの
刮目コメントがありました
古今東西の「あの世」のことを調べていて、
気づいたことがあります。
それは、地獄の様子は
場所とか民族とかによって様々異なっていて、
それぞれ迫力と現実感に満ちているのに対し、
天国の方は世界中
ほとんど同じだということです。
I noticed one thing
when I studied ‘another world’
all over the world from the ancient times;
the Hells seem different from each other
depending on the places or the peoples,
filled with energy and reality respectively,
while the Heaven seems almost
the same all over the world.
古今東西，世界中の人々が，
いかに恐怖心から地獄のことばかり考え，
天国のことはほとんど考えてこなかった
かの，間接証拠と言い得るのでは
ないでしょうか…
水木さんは，
「生きていく上で大切なこと」を
こう述べられています
ときどき怠けることは
生きていくうえで大切なことです。
そして、仕事でも役立つのです。
It is important to be sometimes lazy
in order to live,
which I will be of help in your work.
さらに…
熱中する能力、いわば「好き」の力ほど、
人生を生きていくうえで大事なものは
ないような気がする。
I’m afraid nothing is more important
to live a life than the ability to concentrate,
as it were, the ability of ‘favorites’.
好きこそ物の上手なれ，
を水木さんは人生かけて
証明されたような方でした
ご自身について，
水木さんは次のように語られています
私は得な性分で、
つらかったことは忘れ、
楽しかったことだけを覚えている。
I have a lucky temper;
to forget what was suffering,
and to remember just what was pleasant.
これはおそらく，脳科学的には異常な方です
と言いますのも，人間は
つらい・悲しい・痛いなどの
ネガティブな経験を強烈に記憶する，
というのが脳科学の常識だからです
いわゆる「トラウマ理論」の正反対です
太宰治は，
実はとってもひょうきんな人だった
らしいよと，
太宰研究をしていました国文学科の
友人のことばを思い出しました
水木さんがこういう性格の
方だったからでしょうか，
小生が幼少期に毎回，
こわごわ鬼太郎を見始めても，
見終わった時には，
上手く言えないけれど，
なんだか妖怪たちに大事なことを教わって
「得した感」と，少しの「幸せ感」が
同時に奇妙な余韻として残り，
その後1週間のうちに家族や友だちと一緒に
何度も思い出して，
また次を見ずにはいられない，
というルーティーンに…という
軽やかな魔力にかかっていました
水木さん流の人生論は，
端的明瞭です
我を忘れて没頭できること、
本気で夢中になれることなら、
どんなにアホなことでもいい。
It is good for you
to be beside yourself with something,
to be absorbed in something,
however ridiculous it is.
ある意味，と言いますか，
妖怪研究などは水木さんご自身も
「アホなこと」というご自覚は
おありだったのでしょう
では，
私たちが生まれてきた理由は…
人間は好きなこと、
すなわち「しないではいられないこと」
をするために生まれてきたんです。
We came into the world
to do our favorites,
that is, ‘what we can’t help doing.’
ですから…
他人の思惑などに振り回されず、
自分のやりたいように生きる。
外の世界にいちいち対応せず、
自分の世界の流儀でやればいい。
I’ll live as I like, not confused
by the worries of others.
You have only to do in your world,
not corresponding to the outer world
one by one.
水木さんならではのパラドックスが
炸裂しているコメントがありました
私は「奇人は貴人」だと考えている
I regard the ‘odd’ as the ‘noble’.
その心は…
誰が何と言おうと、強い気持ちで、
我がままに自分の楽しみを
追い求めているのです。
だから幸せなのです。
No matter what others say,
and no matter who they are,
I have been pursuing
my own pleasure selfishly,
with strong intentions;
so, I’m happy.
ですから，水木さんは仰います
さあ、あなたも奇人変人になりなさい。
Well, be an odd, strange person.
今回，
水木ワールドの一端を覗かせて頂き，
率直に思った感想があります
AI化が加速し，効率・精度・速度など，
一見「無駄」のないものばかりに
価値が置かれる風潮にあって，
妖怪という，
見かけは無駄でしかない存在だからこそ，
汲み取られうる，でも，
たやすくことばには出来かねる
軽やかにくねり続ける狂気に，
そこはかとなくかけがえのないものを
感じさせて頂けた気がしました
妖怪にも，美がありました
それでは，このへんで
