tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:誤解されない人間など、毒にも薬にもならない。(小林秀雄)

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                                                         June.23.2018  

 

 

小林秀雄氏は,1902年東京都生まれの

文芸評論家です

 

戦前・戦後に渡って

数々の独自の評論活動をし,

『無常といふ事』『モオツァルト』

『考えるヒント』『本居宣長』など,

名文のお手本とされる作品を

残されました

 

志賀直哉川端康成らとも

親交がありました

 

1967年には文化勲章を授与されています

 

日本において必要な評論における

「批判精神」を体現されました

その鋭い分析力・洞察力はいまだに新鮮で,

特定の文芸の文脈から離れたことばとしても

「はっ」とさせられるものばかりです

 

本日は,この小林秀雄氏の

時代に消費されない普遍性を持つ

名言のいくつかをご紹介したいと思います

(英文拙訳) 

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まずは,「自分」にまつわるものからです

 

自己嫌悪とは自分への一種の甘え方だ。

最も逆説的な自己陶酔の形式だ。

Self-hatred is a kind of spoiling oneself;

it’s the most paradoxical form

of self-indulgence.

 

自意識過剰が募りますと,誰しも

自己偏愛になってしまうか,

自己嫌悪になってしまいます

 このどちらもが

結局は「自己陶酔」から生まれたものです

小林氏からしますと,

自己嫌悪はこうした意味で,

他者からの同情を得るための

「甘え」としか見えなかったのでしょう

 

 また,自分に関する「学び」については…

 

自惚れだって学んで得るのだ。

絶望するのにも才能を要し、

その才能も学んで得なくてはならぬ…

We learn and get even our self-conceit;

we need ability even to be disappointed,

and it has to be got by learning...

 

自惚れも絶望も学んでいる才能があってこそ

 

あまりにも鋭くて,二の句が告げません…

例えば,自慢話については…

 

上手に語れる経験なぞは、

経験でもなんでもない。

はっきりと語れる自己などは、

自己でもなんでもない。

An experience well told

isn’t an experience at all;

a self told clearly isn’t

a self at all.

 

ですが,何事を貫くにも

根本的に「自信」がなくては,

物事は健全に始まりません

その「自信」について小林氏は,

美しい比喩を交えてこう語っておられます

 

自信というのは、

いわば雪の様に音もなく、

幾時の間に積った様なもので

なければ駄目だ。

Confidence must be something

that has piled up for a long time

without a sound, as it were, snow.

  

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小林氏は「人間」 について,

次のようなコメントを残されています

 

いづれにせよ、人間は、

憎悪し拒絶するものの為には苦しまない。

本当の苦しみは愛するものからやって来る。

Anyway, people don’t suffer for something

they hate or reject;

the real suffering comes from the loved one.

 

たしかに…

愛するものに関して,

自分の思い通りにいかないことほど

苦しみを与えるものはありません

敵対できた方がどれだけ楽だったことか…

 

これはいったい,なぜなのでしょうか? 

 

知性や意思は、感情を説得する力がない。

Intelligence and will don't have the power

to persuade emotions. 

 

感情エネルギーは理性を超えます

個人レベルであれ,社会レベルであれ,

経済レベルであれ,国家レベルであれ,

結局のところ人と人との対立図式は,

根本が感情であって論理ではありません

 

岡本太郎氏の次のことばを思い出しました…

 

   人生の目的は悟ることではありません。

   生きるんです。

   人間は動物ですから。

 

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小林氏の洞察は,

逆説の論理を自在に操ります

 

人間は憎み合う事によっても協力する…

People cooperate even by hating each other...

 

そして…

 

誤解されない人間など、

毒にも薬にもならない。

The person who is not misunderstood

can’t be a poison or medicine. 

 

「常識」の監獄に閉じ込められ,

言われたままに動き,

他律的な没個性の快楽に浸って生きる…

 

ミヒャエル・エンデが『モモ』の中で,

痛烈に告発した「時間泥棒」こそ,

小林氏の言う「誤解されない人間」

ということになるでしょう

 

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小林氏は

近代資本主義社会の中に悲劇を見ます

 

人間に何かが足りないから

悲劇は起こるのではない。

何かが在り過ぎるから悲劇が起こるのだ。

Tragedy happens not because

we are lacking in something, but because

we have something too much.

 

過剰によって問題が生じ,それが悲劇を生む

歴史をひもときますと,

大きな出来事は例外なくこのパタンなのかも

しれません

ただこれは,日常の小さな人間関係においても

あり得る話です

例えば…

 

人間は他人を説得しようなどと

思わぬ人間にしか、

決して本当には説得されないものである。

People are never really persuaded

by only those who don’t try 

to persuade others.

 

こちらを説得しようと

「過剰」なエネルギーを注いでくる人からは,

逃げたくなります

自然にこちらが

興味を持たされるような人には,

気がつけば説得されていた,

ということがあります

 

経済学者セイラー氏の言う

「ナッジ(軽い肘打ち)」ができる人です

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小林氏は「美」についても

多く言及されました

例えば,絵画鑑賞につきましては…

 

見ることは喋ることではない。

言葉は眼の邪魔になるものです。

Seeing isn’t speaking;

words will be in the way of our eyes.

 

言葉は眼の邪魔 

 

確かに…

美術館で絵画鑑賞する時も,

一つ一つの絵の説明をよく読んだ上で

見る楽しみもありますが,

それがあまりにもたくさんあると

疲れてきます

 

何も知らないで見たときに,

今の自分は何を感じるか…

個人的には自分のその時その場の

「一期一会」に臨むつもりで,

直感的に鑑賞するのが好きです

 

この意味で,

小林氏の次の指摘は

とても小生の「ツボ」をついています

 

美しいものは、諸君を黙らせます。

美には人を沈黙させる力があるのです。

The beautiful makes you all silent;

beauty has the power to make people silent.

 

素晴らしいディナーを食べた後に,

ただ「おいしい!」と言えばいいのであって,

あまりにも言葉で表現しようとしてしまうと,

そのせっかくの余韻を

楽しめない状態になってしまいます

 

言葉が舌の邪魔なのです

 

真の美がもたらす沈黙

文字通り「息を飲む」美に出会った時に,

言葉を超え五感がフル活動している,

あの美的体験こそが,

言葉の重力から私たちを解き放ち,

魂の無重力空間へと誘うのです

 

そして,こう確信してしまうのです…

 

美は信用であるか。そうである。

Is beauty credit? That is.

 

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小林氏の死生観がうかがえる

コメントがありました

 

命という大問題を

上手に解こうとしてはならない、

命のほうから答えてくれるように、

命にうまく質問せよ。

You shouldn’t try to solve

the big problem of life well;

you should ask life well

in order to have life answer to you.

 

現在,iPS細胞の技術を筆頭に,

臓器移植や脳死問題など,

医学界は「バイオエシックス生命倫理)」

が喫緊の課題として問われています

「人によってそれは違う」というだけでは

済まされない社会問題です

それを「上手く」解こうとするのではなく,

「命にうまく質問」してみる…

 

小林氏のこの逆説的指摘は,

私たちにとって次世代バイオエシックス

「考えるヒント」になるのではないでしょうか

 

歴史に関して,

小林氏は次のように述べられています

 

生きた人が死んで了った人について、

そのなけなしの想像力をはたく。

だから歴史がある。

The left people struggle with

what imagination they have

about the dead;

hence our history .

 

歴史とは生者による死者の記録です

 

もうここにはいない人たちがやった,

終わってしまったことについて,

その理由などをあれこれ残された人間たちが

拙い想像力を働かせてまとめるだけのもの

 

つまり,歴史とは…

 

永遠の現在とさえ思われて、

この奇妙な場所に、

僕達は未来への希望に準じて

過去を蘇らす。

In this strange place,

which feels even the eternal present,

we revive the past

according to the hope for the future.

 

小林氏のあくなき探求の末に見えてしまった,

壮大な未来と過去に挟まれた「永遠の現在」

にしか生きられないことに

気づいてしまった驚きを,

ぼう然としながらつぶやいたかのような

コメントです

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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