William Baziotes: Figure on a Tightrope
April.12.2018
カール・ロジャーズは,
1902年アメリカ生まれの臨床心理学者です
心理相談の対象者を患者(patient)ではなく
クライアント(来談者:client)と称した,
最初の人です
1982年にはアメリカ心理学会によるアンケート調査,
「もっとも影響力のある10人の心理療法家」で,
第一位に選ばれました
クライアントに答えやアドヴァイスを敢えて言わない,
非指示的カウンセリングを提唱し,
「来談者中心療法」を確立しました
そのカウンセリング論の特徴は,
人間に対する楽観的な見方にあります
フロイトに見られるような原罪的悲観論とは反対です
人間には有機体として自己実現する力が
自然に備わっている
有機体としての成長と可能性の実現を行うのは,
人間そのものの性質であり,本能である
カウンセリングの使命は,
この成長と可能性の実現を促す環境を作ることにある
ロジャーズはこう考えたのです
本日はこの,現代心理療法の巨人,
カール・ロジャーズの名言を
いくつかご紹介したいと思います
まずは,ロジャーズがカウンセリングの大前提と
考えました,相手の話をよく聞くこと,
「傾聴」についてのコメントです
We think we listen,
but very rarely do we listen
with real understanding, true empathy.
Yet listening, of this very special kind,
is one of the most potent forces
for change that I know.
私たちは傾聴していると思っているが,
本当の理解,本当の共感を伴って聞くことは
とても少ない
だが傾聴することは,このとても特別な種の能力は,
私が知る中では変化を起こす
最強の潜在力の一つである
今ではカウンセリングの世界で
常識となっていることです
第一に相手の話を聞くこと,そしてその「傾聴」が
相手の心を開かせ,自分で自分の問題に気づける
状況作りを自然とすることができる,
とロジャーズは考えました
それまでの精神分析学的方法では,
どうしても医師対患者の図式になってしまい,
医師が「父性的」な立場をとっていたために,
クライアントが本音でそのセッションに
向かえていないという現実に,
ロジャーズは気づいたのです
彼の基本的立場は,クライアントのポテンシャルを
最大限引き出すことにありました
One of the most satisfying experiences
I know is fully to appreciate an individual
in the same way I appreciate a sunset.
私の知る最も満足のいく経験の一つは,
全くもって私が日暮れを愛でるのと同じ方法で
個人を愛でることである
その心は?
People are just as wonderful as sunsets
if you let them be.
When I look at a sunset,
I don't find myself saying,
"Soften the orange a bit
on the right hand corner."
I don't try to control a sunset.
I watch with awe as it unfolds.
人々はありのままでいてもらえば,
まさに日暮れと同じくらい素晴らしい
私が日暮れを見る時,
「右手の角のところのオレンジを
少しやわらかくしよう」などと言うことはない
私は日暮れをコントロールしようなんてしない
私は畏怖の念を持って太陽が沈むのを見る
ロジャーズは,
クライアントの問題に対する答えは,
既にクライアントが知っているのだとします
問題を作ったのが自分なら,
答えも既に自分が知っている,と
だからこそ,カウンセラーの役割は,
答えを与えるのではなく,
答えを知っている自分に気づかせることだ,
と考えたのです
As no one else can know
how we perceive,
we are the best experts on ourselves.
私たちがどう知覚しているかなんて
誰も他に分かりようがないのだから,
私たちは自分たちについて知る最良の専門家である
その通りです
いくら仲の良い関係だったり,家族だったりしても,
あらゆる瞬間,あらゆる場所での
その人の知覚の全てなど,
本人にしか分かりようがありません
ではどうしようもない問題等に突き当たってしまい,
途方に暮れてしまった場合に,
どうすれば良いのでしょうか?
The curious paradox is
that when I accept myself just as I am,
then I can change.
興味深い逆説は,
私がまさしく今の私を受け入れたとき,
その時私は変化し得るということである
なるほど…
「今の自分」を受け入れず否定し続けている限り,
後戻りはあっても前進はありません
ロジャーズのこのメッセージのポイントは,
「今の自分」を受け入れることに集中できれば,
自然とその次が開けてくるということです
心の展開は「今の自分」から
すべて始まるわけですから…
Anxiety develops
when adults find they are unable to accept
the person they have become.
不安は今の自分を受け入れられない
と思った時に始まる
ある意味でロジャーズは,
それ以前の精神分析の西欧合理主義的二元論による
心も「モノ」とする三次元の精神物質主義ではなく,
高次の「時間」の要素も入れた動的事態,
「プロセス」としての人間心理を対象としていました
It is the client who knows
what hurts,
what directions to go,
what problems are crucial,
what experiences
have been deeply buried.
何が自分を傷つけていて,
どんな方向に進むべきで,
どんな問題が極めて重要で,
どんな経験が
深く埋め込まれてきたのか
を知るのは,クライアントである
ここで大切なことは,
カウンセラーも不完全な存在であり弱い人間である,
という自覚を持ち続けることだと
ロジャーズは強調します
I accept confusion, uncertainty,
fear and emotional ups and downs;
because that's the price
I'm willing to pay for a fluid,
perplexed and exciting life.
私は混乱や,不確かさや,恐れや,
感情的なアップダウンを受け入れる
と言うのも,それは流動的で,面倒だけど
ワクワクする生のために私が喜んで支払う
代償だからである
カウンセラー本人がこの姿勢でいるのなら,
主従関係を生み出すような権力構造はあり得ません
むしろそのカウンセラーが
ずっと「権威的」にしか思えないとしたら,
要注意だということです
William Baziotes: The Flesh Eaters
ロジャーズは,カウンセリングを通じ,
点在する人々の心に,
文字通り架け橋をかけることを目指していました
Henri Matisse: Mask