tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:世界を目指すには、まず日本を、そして己れを知ることではないでしょうか。(野村萬斎)

f:id:tsuputon7:20180310111030j:plain

 

 

                                                  March.10.2018

 

野村万斎さんは,1966年東京生まれの,

狂言能楽師です

 

あの羽生結弦選手が金メダルを取ったときの

フリーの演技「陰陽師」の原作となった

同名の映画の主役で,  安倍晴明を演じられた方です

あの音楽も最初の振り付けとかも,

そこからとられています

 

小生は2度ほど東京の世田谷パブリックシアター

萬斎さんの狂言を見に行ったことがあります

素人が見ましても,  

立ち居振る舞いの無駄のなさと美しさ,

それを支えるとてつもない精神エネルギーの強さに

圧倒されて帰ってきたものでした

能とは違って,「笑い」が基本である狂言は,

日本古来のコメディーとなりますが,

それを伝承していますミーム(文化的遺伝子)は

途方もなく力強い伝統です 

tsuputon7.hatenablog.com

 

本日はこの,  世界の老若男女に狂言を広めようと

日夜努力をされ続けておられます

野村万斎さんの名言のいくつかを

ご紹介したいと思います

(英文拙訳)                                                       

 

f:id:tsuputon7:20180310105258j:plain

f:id:tsuputon7:20180310105318p:plain

 

 

まずは,狂言を含む古典芸能についての

萬斎さんの考え方です

 

古典芸能は、享受する側が視覚や聴覚、

いろいろな感覚を使い、

時を超えて繰り返しアプローチしても揺るがない、

豊かなエンターテインメントです。

The classical performing arts are

the entertainments that are received

by the recipents by using sight, hearing sense,

and other senses,

even if they approach them

over the times repeatedly.

 

「時を越えて繰り返しアプローチしてもいるがない」

ほどの魅力のある何か

それが古典芸能だとおっしゃいます

 

人々の五感に訴えて,  時の試練を経ても衰えない力,

それがあるからこそ,萬斎さんを始め

様々な古典芸能者はこの現代でも日々,

自己鍛錬を欠かされないのです

 

続きまして,  現代のネット社会等にはびこる

風潮についてのお考えです

 

「想像力を働かせるもの=不親切」

と捉えるいまの時代の風潮には首を傾げます。

不親切ではなく、自分の好きなように観て、

想像して構わない面白さが

狂言にはあるのですから。

I cannot understand today’s trend

that regards imaginary things are unkind.

It’s not the unkindness but interest in kyogen

that you can find there as you like

and imagine freely. 

 

現代の小中学生,  

いわゆるデジタルネイティブの子たちに

認知症」の症状がみられることがあると言います

SNSやゲーム等のしすぎで,  短期記憶は得意になっても

それがどんどんどんどん入れ替わる一方ですので,

長期記憶にならない,側頭葉のストックがなされない

と言うのです

 

ある情報が長期記憶になる条件としまして,

脳内の海馬から,  不自然に反復されたものだけが

側頭葉に転送されるといいます

 

現代の超情報社会は「反復」を嫌います

大雑把な言い方かもしれませんが,

その反復のなさから長期記憶力の低下が

起こっているように思えてなりません

 

こうした意味で,

萬斎さんは「想像力を働かせるもの」が

「不親切」だとする風潮に,異を唱えてくれています

狂言は自由に想像力働かせていいものだ…

ある種この点は,デジタル脳がすくいきれない

アナログな,私たちの存在にとって

とても大事な何かが隠されている所かもしれません

 

f:id:tsuputon7:20180310105403j:plain

 

 

萬斎さんは,  狂言の中でも「型」の大切さを

繰り返し強調されます

 

型とは狂言のひとつひとつの動作や

振る舞いを示す名称ですが、

基本的な立ち方から、

食べたり飲んだりする様などの

具体的な仕草や音声も含みます。

The ‘kata’ is the name that shows each one

of the movements and behaviors in Kyogen,

but it also includes the basic way of the standing

to concrete posing or voice and sound

when you eat or drink and so on.

 

英語で言うと「フォーム」ですが,

まずはそのフォームがなければ狂言にならない

と仰るのです

 

型のために型に忠実であるのではなく、

型を身につけてしまえば、

型はむしろ自分に忠実なものとなり、

自然にできるはずです。

If you master ‘kata’,

not being loyal to I for itself,

the ‘kata’ becomes loyal to you

and you should be able to do it naturally.

  

これは, ピカソが既存の油絵の技術を,19歳の時には

完璧に会得した上で, 自らあのキュビズム始め

様々な革新的なアイディアを具現化したことを

想起させます

萬斎さんも, 40代に入ってやっとこの境地に立れた

と仰っています

 

f:id:tsuputon7:20180310105544j:plain

 

 

さらに日本文化について,

次のように語っておられます

 

日本人のアイデンティティは雑食性ですね。

前の文化を否定せず、

すべて捨てずに

次の時代へ引き継ぐ性質です。

The identity of the Japanese is omnivore;

it has the character of not denying

the previous culture and doesn’t discard it

and inherit it to the next generation.

 

いわゆる「加工文化」と言われる

日本文化の本質をついた発言だと思います

 飛鳥時代に,神道が仏教を見る見事に受け入れ,

共存することに成功したように,

日本人のお得意芸は「来るものは拒まず」の精神です

よくも悪くもこれが日本文化です

 

単に混ぜ合わせるだけでなく

結びつけることで別の新しいものになる。

それが日本文化の良いところだと思うんです。

As I see it,  it is the good point of Japanese culture

that doesn’t simply confuse things

but connect them to make other new ones. 

 

確かに,  単なる混ぜ合わせてあれば,

何も有機的な価値を持ちようがありません

そこをなんとか,点と点を結びつけて線にしていく

そしてそれを新しいものとし,

次世代へ続けて伝承していく

萬斎さん曰くの日本文化の美学解釈です

 

f:id:tsuputon7:20180310105607j:plain

  

  

萬斎さんは,現代日本の若者に向けた

意義深い教育的メッセージを語られています

 

生きていくための基本が『教養』であるべき。

たとえば世の中に出る前に、

物事の思考の仕方や人との接し方などを

正しくプログラミングしてあげる。

それなしに、

いきなり個性と言っても始まらない。

The basis of living should to be ‘cultures’.

For example, before making one’s way

through the world, we should program them rightly,

such as the way of thinking things

or how to interact with people.

Without it,

it’s meaningless if you demand originality

from them all of a sudden. 

 

小生もおっしゃる通りだと思います

現代の日本の学校組織には,「教養」を教える機関は

ほぼ皆無になってきました

「教養」は,  なくても生きていかれますが,

哲学を始めこれまでの先人たちが

どのように生死について考え,

その価値観に至ったのかを知ること,

善悪についての倫理をどう持てば良いのか

多少なりとも知ること,

そして,最も大切かと思いますが,

様々な宗教の考え方を浅くても良いので

知っておくこと,

これは現代世界の戦争や紛争の根元を見ますと,

すべて宗教が根源だと言う事は一目瞭然だからです

 

ですが,   一部を除き宗教についての教育は,

ほぼなされないのが現状です

 

そういう意味で,「教養」も十分にない

官僚・政治家・経済人・科学者が

この国家のハンドルを握っているのかと思いますと,

空恐ろしいです

  

f:id:tsuputon7:20180310105635j:plain

 

 

最後に,  萬斎さんは,世界に出たいのなら

日本人が知っておくべきことについて

提案をされています

 

日本人に日本をもっと

知ってもらいたいと思っています。

知らないことは、過度のうぬぼれや

卑下を生みます。

世界を目指すには、まず日本を、

そして己れを知ることではないでしょうか。

I want to Japanese people

to know Japan more.

Not knowing it makes too much conceit

or self-underestimate.  

I’m afraid if you want to go into the rest of the world,

first, you should know Japan and then you yourself.

 

萬斎さんは日本人は「日本」という「型」を持って

初めて海外に出るべきだと仰っているかのようです

そうした「型」を自然に子どもたちに教える教育環境が

整うことを願うばかりです

 

無知は過度のうぬぼれや卑下を生む

我田引水なナルシストでは,  海外はおろか,

日本国内でも多かれ少なかれ軋轢がある中で

生活せざるをえない時代だと思います

 

楽家坂本龍一さんは,

現代の音楽の95%はもう昔からあるもので,

残りの5%で自分が勝負していると仰っています

つまり,  たかだか自分ひとりであれこれ考えたところで,

その大半は過去に誰かが考えたことがあるものだと

そうしますと,

さっさとその95% である「教養」を身に付け,

その上での創作にかからないと,

オリジナリティーなど出せないというのです

 

萬斎さんの数々のことばに触れ,

改めて真の「伝統」は,「いつまでたっても新しい」

のだと確信致しました

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

tsuputon7.hatenablog.com

tsuputon7.hatenablog.com

 

f:id:tsuputon7:20180310105708j:plain