tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:悲しみは、人から教われないからね。自分でわかんなきゃ、わかんないわけだから(小澤征爾)

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Paul Klee :  Little Hope 

 

                                                        Feb.17.2018

 

 

小澤征爾氏は

1935年生まれの世界的指揮者です

 

あのカラヤン氏に師事したことでも

知られています

 

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団名誉団員・

ボストン交響楽団桂冠音楽監督などを歴任しました

 

小生は今を去ること20年ほど前に

東京のサントリーホールでボストンフィル管弦楽団

指揮されたコンサートに行ったことがあります

指揮棒を持たずに,盛り上がったシーンでは

垂直な動きで縦に激しく曲げた両腕を振って,

全身踊るシャーマンのトランス状態のように

指揮されておられた光景が狂気に輝いていて,

今でもリアルに感動体験として

脳裏に焼き付いています

 

 

先日,知人の奥様が東京の小田急線に乗っていた時,

5歳になる息子さんがとあるアニメソングを

口ずさんでいたのですが,

とってもお上手だねえと,

隣のおじさまが話しかけてくれて,

いっしょに歌った後に気さくに

記念撮影してくれたそうですが,

あとで家族に言われ気づいたことに,

それが小澤征爾さんだったそうです…

 

別の友人は世田谷区某所のドラッグストアで

草履にジャージ姿で

ティッシュペーパーを買う小澤さんを

目撃したと言っていました

 

また先日NHKの生放送番組に出ておられた際,

 僕の髪型,そんなに変わっているかなあ?

っと,もしゃもしゃされいておられました…

 

 

なぜか本日はこの,偉大すぎるのにどこか

身近に感じてしまう小澤征爾氏の名言を

いくつかご紹介ししたいと思います

(英文拙訳)

 

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まずは,ご自身の体験談からくる指揮者論です

 

言葉ができないと不自由ばかりですけれど、

一つよかったのは、

海外で指揮する時に私は喋らないんです。

喋れないから。言葉が堪能だと、

説明しすぎてしまうでしょ。

説明の多い指揮者はよくないんですよ。

If you can’t to speak a language,

there will be a lot of inconvenience.

But what was good for me was

my inability of the language.

I couldn’t speak. If you are fluent,

you will explain too much.

A conductor of a lot of explanation isn’t good .

 

たしかにクラッシック音楽の指揮者が

饒舌なイメージはないです

以前NHKの特集で拝見しました時,

小澤氏がリハーサル風景で,

「ユー,グッド!」

「ユー,ノット・グッド!」

「レッツゴー・ファースター!」

と,大変心のこもったジャパニーズ・イングリッシュで

端的明瞭な指示を出しておられました

 

そういえば,長嶋巨人名誉監督が

「ホームランはどうやって打つんですか」

と聞かれたとき,

「こうやって,ブワーッって打つんだ!」

と,フリだけされたそうです

理解できたのは原元監督だけだったとか…

 

ことばを超えた領域でしか伝えられないものは

とりわけ超一流の世界では多々あるようです

 

言葉は全然違うけれども。…

もっと底まで入ると、

人間の共通面があると思うんです。

言葉なんかを超えた、と信じているわけ、僕は。

だからこうやって、指揮者をやっているんです。

We have quite a lot of languages…

But in much the deeper level , as I see it,

there is a common aspect of us human beings.

I believe there is something beyond the languages;

so, I am a conductor like this. 

 

芸術の中でもとりわけ音楽は,

国境を最も超えやすい分野です

そこで「人間の共通面」をことばを超えて

探ろうとされる地球規模のスケールが,

やはり並々ならぬ御方です

 

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続きまして,

情報化社会についてのコメントです

 

テレビで見たり、

インターネットで調べたりで

世界を知った気持ちになってしまう。

確かに私たちが若い頃よりも

はるかに海の向こうの情報は入ります。

でも、それは他の誰かの体験であって、

自分自身の経験ではありません。

We tend to feel as if we knew the world

only by watching TV,

or researching through the Internet.

It is true that you can get much more information

than we could when young.

But that’s the experience of somebody else’s,

not your own. 

 

他の誰かの経験,

たしかに単なる情報は自分の経験ではありません

情報化社会で情報不足は致命的ですが,

情報過多で振り回されていますと,

自分の経験がなくなります

 

小澤氏の指揮はご自身独自の解釈を交えられた

気迫溢れる魂の産物です

 

楽譜に書いてある通り、

非常に几帳面にやって、

規則に合ったことをやって、

「はい、これで終わり」の演奏会をされたら、

みんなバカバカしくなって、

音楽会に来なくなっちゃいますよ。

People will not come to a concert

feeling being ridiculed to see the one

where you play very seriously reading your scores,

following the rules, and say, “This is it.”

 

そして,端的にこうも仰います

 

技術の上手下手ではない。

その心が人を打つ

It’s not your skill but your heart

that moves people.

 

その心は?

  

音楽は、非常に「個」の強いものです。

一人一人の経験の中から、

じわじわっと出てくる。

 Music is very individual.

It emerges from the experiences

of each individual gradually.

 

このように小澤氏の音楽観は

個人的経験を基本とするものです

客観的な基準に沿ってなせばいいものではなく,

その人にしかできない内面の表出があって初めて,

音楽足り得るとされるのです

 

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最後に,「美しいもの」と「悲しみ」についてです

 

自分が年をとってきたからかもしれないけれど、

大事なものとか美しいもの、

美しいと言ってもただ見て美しいのではなくて、

心に染みわたる美しさとか、

心を打たれる美しさというのは、

少し悲しみの味がするのよ

If I’m afraid I am getting order;

but I feel some kind of grief

to encounter something important and beautiful,

not only beautiful just by looking at it,

but also beautiful to my heart and moving.

 

切なさ,儚さ,ほろび…

あのダイナミックでエネルギーのほとばしる

指揮をされる小澤氏の美学は,

意外なまでに繊細極まりないものです

 

これまで生きて、悲しみを味わった経験。

悲しみは、人から教われないからね。

自分でわかんなきゃ、わかんないわけだから

The experiences you have felt grief up to now;

you can’t be taught the grief by others.

If you can’t understand it by yourself, you can’t.

 

悲しみは極めて個人的経験です

そこからリカバーするには,

いくら人に話を聞いてもらっても,

いくら世界の名著をたくさん読んでも,

結局は自分の中での試練でしかありません

 

癒しは他者からくるものでも

天から恵まれるものでもなく,

自分で自分を救える人にしかありえません

 

ですが,一端その悲しみを乗り越えられたら,

その人は想像以上の強さを得ます

 

そういう意味で悲しみは独学されるしかありません

 

小澤氏のメッセージは

優れて説得力の高い

良質の哲学に溢れている気がします

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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