tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:前後を切断せよ, 満身の力を込めて現在に働け。(夏目漱石)

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                 Jan.30.2018

 

 

夏目漱石は1867年,

現東京都新宿区の牛込馬場下の名主の家に生まれた

小説家です

 

東京帝国大学を卒業英文科を卒業後,

英文学を学ぶことに違和感を覚え,

極度の神経衰弱と強迫観念に

駆られるようになりました

 

その後,愛媛県尋常中学校教師を勤め,

文部省よりも命でイギリス留学をし,

シェークスピア研究家の個人指導を受けましたが,

英文学研究をすることの意義については

疑問を感じ続けていました

帰国後,1903年東京帝国大学の英語講師となります

 

その在任中に東京都文京区千駄木の自宅で

(跡地は現日本医科大学構内)

吾輩は猫である』を執筆し,

大きな評価を受けるようになりました

 

そして1907年には教職を辞し,

朝日新聞社に職業作家として入社しました

その後49歳で他界するまで作家活動に専念しました

 

芥川龍之介漱石の門下生です

「鼻」を漱石は絶賛したといいます

 

漱石の作品は世俗を忘れ,

人生をゆったりと眺めようとする

自称「低徊趣味」でした

余裕派とも呼ばれました

 

働く必要がなく読書ばかりして過ごしているような

高等遊民」のキャラクターを

漱石はしばしば好んで用いました

 

本日はこの,個人と国家のダブルバインドの中,

命をかけて洒脱を極めた夏目漱石

名言をいくつかご紹介したいと思います

(英文拙訳)

 

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東京都文京区千駄木日本医科大学キャンパスにある

漱石旧居跡の石碑

 

 

当時の東京帝国大学は,

「官僚養成」のための場として作られたばかりでした

文部省から英国留学を命じられ,

英文学研究の意義が腑に落ちないまま渡英し,

帰国後同大学英文学科講師となるも,

前任者小泉八雲ラフカディオ・ハーン)と

比較されたりして,

心労は絶えなかったようです

 

あくまで小生独自の解釈ではありますが,

そうした「官僚」批判とも取れることばが

いくつか残っていました

 

    君は山を呼び寄せる男だ。

    呼び寄せて来ないと怒る男だ。

    地団駄を踏んでくやしがる男だ。

    そうして山を悪く批判する事だけを考える男だ。

    なぜ山の方へ歩いて行かない。

    You are the man

    who makes the mountain come up to you,

    gets angry if you can’t,

    regret it stamping,

    and  thinks how to criticize the mountain badly;

    Why don’t you go to it? 

 

昔から官僚は,

自分では動かない人だったのでしょうか… 

 

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また,自らのアイデンティティ

示そうとしたことばがありました

  

私は冷かな頭で

新らしい事を口にするよりも、

熱した舌で平凡な説を述べる方が

生きていると信じています。

I do believe

it is not so much saying new things with cool minds

as telling plain theories with a hot tongue

that makes me alive. 

 

冷ややかな頭で新しい事を口にする,

まさしく明治時代の官僚のあり方を

表していた気がします(今もでしょう)

 

ですが,漱石自身はたとえ平凡な説であれ,

情熱を持って熱い思いで語っていくこと,

それこそが自分として生きていることだとの

確信に満ちた宣言です

 

漱石は文明開花に湧く明治時代に,

英国文化を日本に輸入する社会的義務と,

自身の内面から湧き上がって止まない

和に対する思いとが板挟みとなり,

それが神経衰弱や胃潰瘍

引き起こしていたのではないかとする

声もあります

 

軽快な作風の中にも生死をかけた

深遠なメッセージも込められているのは

そのためでもあるでしょう

 

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自分も含めた人の弱さについて,

漱石はいくつか述べています

  

    自分の弱点をさらけ出さずに

    人に利益を与えられない。

    You can’t give a person some benefit

    without exposing your weak points. 

 

これも持論ではあるのですが,

真のリーダーはこのように

自分の弱点をさらけ出す勇気がなければ,

人を動かすことも,

その人にプラスになることも

できはしないと思います

 

    僕は無能です。

    仕方がないからせめて

    人に嫌われてでもみようと思うのです。

    I have no tarent,

    so, at least,

    I can’t help wanting to be hated by people.

 

バーナード・ショーですと,

これは成功哲学でした… 

tsuputon7.hatenablog.com

 

そしてため息をつきながら…

 

   人間は角があると

   世の中を転がって行くのが

   骨が折れて損だよ。

   If you have some knives with yourself,

   rolling around the world

   will make you take pains and damage yourself.

 

 

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ともかく,  漱石は終生,西洋的自我と

日本人としての自分との間の

アイデンティティー・クライシスにあり,

自分の居場所探しを続けました

そんな中で身に付けた知恵でしょうか…

 

    愛嬌というのはね、

    自分より強いものを倒す

    柔らかい武器だよ。

    The personal charm is a soft weapon

    that will beat

    who is stronger than you. 

 

 あっ,これは女性のお話しでしょう…

 

ときにはこのように強烈な表現も… 

 

    自らを尊しと思わぬものは

    奴隷なり。

    Those who don’t regard themselves

    as respectable is a slave.

 

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漱石は自分自身,

小説家という芸術に携わるもの,

という認識がありました

現に『吾輩は猫である』の中でも,

実際交流のあった美学者とのやりとりも交えるなど,

芸術よりのアイデンティティを模索していました

 

    四角の世界から

    常識と名のつく一角を摩滅して、

    三角のうちに住むのを

    芸術家と呼んでも良かろう。  

    We can call a person an artist

    who lives in a triangle,

    eliminating one corner of common sense

    from a square world. 

 

これじたい,なんと洒落た芸術論でしょう!

四角張った常識の一角を削って三角にする…

 

芸術家は角を立ててなんぼです

硬直した常識を破壊して再生する狂気の発動こそ,

真の芸術なわけですから

 

そして,

 

    あらゆる芸術の士は,

    人の世をのどかにし,

    人の心を豊かにするがゆえに尊い

    Every artist can be respected,

    because the person makes the world calm

    and enriches the hearts of the people.

 

晩年,  高等遊民として,

文字通り自身が生きていこうとしました

芸術家が世の中の人々に与えているものが

正当に評価されない社会は,

その社会自体が病んでいる証拠でもあります

 

現在の日本や世界全体の潮流としまして, 

理系中心の国家戦略戦略は時代的に紛う方なく

重要なものかとは思いますが,

いわゆる「文系」の真の価値が,

漱石が目指していたような

ベクトルに向いていないのであれば,

文化のみならず普段の人間関係も含め,

社会が硬直化の一途を辿るのは目に見えています

 

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個として官僚に象徴される国家原理に

静かに対峙しつつ,己の文学を確立した漱石

知らず知らずのうちに自らの身体を犠牲にしてまで,

ことばというやわらかい武器で,

非暴力・不服従を明治の世で貫いてくれました

そして彼のおかげで, その作品は,

100年以上後の私たちにも

現在進行形で多大な影響を及ぼし続けています

 

    前後を切断せよ、

    みだりに過去に執着するなかれ、

    いたずらに将来に未来を属するなかれ、

    満身の力を込めて現在に働け。

    Cut off your before and after,

    don’t cling to the past so much,

    don’t let your dream belong to the future,

    and work in the present as hard as possible. 

 

漱石も「今・ここ」に生きるべくことばを残し

去っていった人でした

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

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