tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

「私はご飯です」と微笑んだマダム

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PAUL KLEE : The Barbed Noose with the Mice

 

                      Oct.29.2017

 

小生が大学1・2年生の時

心理学にどっぷりハマっておりました 

人の心理が分かるなら, 何だってできるんじゃないか?

恐いものを知らない若者にあるあるの,

未来への不安をかき消すための無謀な「勇気」に満ちて

 

3年に進学する時に専攻を決めねばならず

心理学系にするか哲学系にするか

真剣に悩んでいる頃のことでした

心理学に興味を持ったのは主には読書でだったのですが,

時折講演会やセミナーなるものに

参加したこともありました

そのセミナーの中で印象的だったのが,

東京御茶ノ水にある某会館で

参加者100人ぐらいのまずまず大規模なものでした

 

以前も一度ブログで御紹介したことがある方ですが

tsuputon7.hatenablog.com

主催者は当時新進気鋭の心理学者で

アメリカで10年武者修行して帰ってきた

カウンセラーでもありました

 

最初1時間その方の講演があり

休憩が15分あった後

ワークショップ(参加型セミナー)をやるというものでした

当然のごとく1人で参加していた小生としましては

休憩時間になんとなく, 胸騒ぎがしていました

 

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PAUL KLEE : Untitled

 

 

ワークショップが始まると, そのカウンセラーの方が

開口一番,

 

では, 今みなさんの横にいらっしゃる方と

椅子の方向を変えて正面で向き合うようにしてください

 

来た~!

 

でも, 当時は内心気の強い反面

まだ対社会的に未成熟な自我の故,

チキンボーイでしかなかった小生には

もはや逃れられる雰囲気ではありませんでした

隣にはこじゃれた

高級なアクセサリーを身につけた上品なマダムが

こちらもお一方でいらっしゃり

実は開演直前から, 百戦練磨の風格で

 

本日は宜しくお願い致します

 

と, やけに丁重なご挨拶を頂いてました 

 

お願い?...

 

マダムのテンションの真意を把握できたのは

後々のことでした

 

椅子の方向を変えた瞬間

 

改めまして, よろしくお願いします

 

と, 丁重に挨拶されたので

小生はボクトツに

よろしくお願いします

と言いました

 

カウンセラーは徐にこう切り出しました

 

今日やることはいたってシンプルです

片一方の方が「あなたは誰ですか?」と相手に問い

相手の方が「私は何々です,あなたは誰ですか?」と

問い返す形です

これをまず,5分やってみましょう

 

...もうここまで来たら乗るしかないと思った小生は

スイッチを切り替えてセミナ一モードに入りました

 

すると

順番決めのじゃんけんも何もなく

まずマダムがいきなり小生に

 

あなたは誰ですか?

 

と,カウンターパンチ!

1つ目のドミノが倒されました

 

私は〇〇です

 

小生が名前を答えました

そして

 

あなたは誰ですか

 

と聞き返すと

 

私は△ △です

 

とマダムも名前を答えました

 

お互いに天然系のスローモーな話し方で,

 

どこどこに住んでいる

どういう身分である

どういう職業

どういう家庭を持っている

 

云々かんぬんと続け

意外とスムーズな感じで5分が終了しました

 案外, 楽だなあ

と思っていると, カウンセラーの方が

 

はい, ストップ!

ではお互いに黙って2分見つめ合って

その後,10分また続けてみましょう

 

と言いました

 

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2分見つめ合う!?

その後また10分?これ以上?

 

と思いましたが

もう乗ると決めた以上,集中してやるしかありません

真剣な眼差しで見つめてくるマダムのテンションに

内心爆笑しながらも,笑いをこらえる苦行を2分して,

再び問いかけ合いモードに…

 

お互いに身の上話的な内容で

過去の自分の話や出身地

実家の家族構成

をシェアした後,

マダムのほうは

配偶者の家族構成や,

私は配偶者のことで悩んでいますとか,

私は高1の娘が口を聞いてくれないですとか,

愚痴モード

という「離れ業」も繰り出してきました

  

しかし

 

私は東京です

 

とおっしゃり,

 

おしゃれな答えだ

 

と思っていると,

マダムがピタッと答えを出せなくなってしまいました

 

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PAUL KLEE : Angel Applicant

 

相手が何か答えを出すまで

問いかけた方は黙っていなくてはならないという

ルールも言われていたので

小生は黙っていたところ

おそらく1分近く考えた挙句にマダムが

大女優の如く, 間をしっかり取って言った答えが,

 

私は,ご飯です

 

何故か, どや顔的に微笑みを浮かべ

小生の目を見つめてきたときの軽い狂気に

心が震えました

 

これ以上, どうしよう…

と, 小生も問いかけに答えあぐねたその時,

 

はい, 終了で~す

 

と, 天の声が!

 

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カウンセラーの方がどういう事例があったかを

ランダムに聞いてた時, マダムが挙手をして,

 

私はご飯ですと言いましたあ~!

 

と得意げに言った瞬間, 

会場がどっかんどっかん, 大爆笑の渦で

カウンセラーの方も大満足な表情で

 

それですよそれ! ねっ, みなさん!

 

と, 高揚していました

どうも,

ゲシュタルト崩壊するまで「行く」こと

がセミナーの目的だったようで…

 

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セミナーが終わり, いそいそと帰る支度をしていると

マダムが, 「自己実現感」たっぷりに,

 

あの, よろしければ, お電話番号聞かせてもらえますか

 

と言ってきたのですが

当時, まだ携帯電話が全くない頃で,

家電しかないなかった時代ですから

いいですよ, と快諾のふりをしつつ

とっさに電話番号の下4桁はデタラメで答えて

帰ってきました(ごめんなさい)

 

 

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 PAUL KLEE : Miraculous Landing, or the "112!"

 

その夜小生はご飯を食べられませんでした

 

ちょうどカウンセラーを目指し心理学への道を選ぶか

哲学系の研究を選ぶかで一番迷っていた時期で

自分にはこのような司会などできないと強く思い

また, あの真剣なマダムを見て

心底笑いかけた自分の軽さを反省しました

その後, 個人的にこのセミナーを主催した

カウンセラーさんともより深く

コミュニケーションさせて頂いた結果

カウンセラーへの道を

断念と言うよりは適性がないと自覚し

哲学系の美学の研究を選びました

 

自分が誰かとか

そういったアイデンティティー論は哲学的課題で

人との話し合いで決めることでもないなど

当時は生意気にも率直に思ったのです

 

もちろん, 今でも心理学はリスペクトしていますし

時々気になる本も読んだりします

単に適性の観点からして, 軽薄な小生には

がちがち心理学より

ゆるゆる美学の方が合っていると当時思いましたし,

今でもその選択でよかった, と思っております 

 

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PAUL KLEE : Static-Dynamic Gradation

 

 

自分とは何か

 

スティーブ・ジョブズ氏が毎朝自分の顔を洗う時に

鏡を覗き込んで

次のように言っていたというお話は

昔のブログで書かせていただきましたが

tsuputon7.hatenablog.com

ジョブズ氏にとっての「自分」を表していると

思われるあの名言を, 今一度,

ここに御紹介したくなりました

 

If today were the last day of my life,

would I want to do what I am about to do today?

もし今日が私の人生最後の日なら,

まさしく今日しようとしていたことをしたいだろうか

 

それでは, このへんで

ごきげんよう!

 

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PAUL KLEE : Southern Gardens