tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:美しいことばは美しい行為を生むのです(トーマス・マン)

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                                                  July.14.2018

 

 

トーマス・マンは,1875年

ドイツ生まれの小説家です

 

『ブッデンブローク家の人々』

『トーニオ・クレーガー』

ヴェニスに死す』などの

代表作があります

 

 1929年には

「主に現代の古典としての認識を

広く得た傑作

『ブッデンブローク家の人々』

に対して」という理由で,

ノーベル文学賞を授与されています

 

個人的には,

ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画

ヴェニスに死す』を学生時代に見て,

映画に奥手だった小生が

生まれて初めて,「美しい」と

思った映画だったことが思い出されます

マーラーの音楽と共に

海岸べりで主人公が砂浜で

1人いるラストシーンは,

「映像美」としか表現できない

気がしました

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本日はこの,三島由紀夫が敬愛した

トーマス・マン

名言のいくつかをご紹介したいと思います

和文節約)

トーマス・マン - Wikipedia参照

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まずは,「自由と平等」についての

コメントからです
 

It is a strange fact

that freedom and equality,

the two basic ideas of democracy,

are to some extent contradictory.

Logically considered,

freedom and equality are

mutually exclusive,

just as society and the individual are

mutually exclusive.

奇妙なことに,自由と平等は,

民主主義の二つの基本的理念だが,

ある程度矛盾している

論理的に考えると,

自由と平等は互いに排他的だ

ちょうど社会と個人が

互いに排他的であるように

改めて考えてみますと,

自由というのはその個人個人の意思を

行動に反映させて,

ある意味で「思うがまま」に生きる

あり方です

それに対して平等とは,

みんなが一律に同じ価値基準を

第一と考えて,

そのもとに足並みを揃える

ということです

 

例えば,「機会平等」は

それぞれの人に等しい機会が

与えられるわけで,

個人個人の思いのままの機会が

与えられるわけではない

という意味では,不自由です

 

約1世紀も前に,マンは

こうした民主主義の基本理念の矛盾に

気づいていました

 

ですから戦争と平和につきましても… 

 

War is only a cowardly escape

from the problems of peace.

戦争は平和にまつわる問題からの

臆病な逃避だ

確かに「平和」を実現する上での

諸問題が重なって,

それらに直面することが国レベルで

できなくなった時に,

戦争が起こります

 

これも一面では,

平和が戦争を生んでいるという

大きな矛盾ではありますが,

現実と認めざるをえません

そうした状況の中で,

私たちの現代世界は

成り立っています

ですから… 

 

A man lives

not only his personal life,

as an individual,

but also, consciously or unconsciously,

the life of his epoch

and his contemporaries.

人は個人として,

自分の生活を送っているだけではなく,

意識的あるいは無意識的に,

その人の新時代や同時代人の人生を

生きている

 

 

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続きまして,

「気分」ついてのコメントです

 

Time cools, time clarifies;

no mood can be maintained

quite unaltered

through the course of hours.

時は私たちを冷静にしてくれるし,

ものごとをはっきりさせてくれる

数時間経てば,どんな気分であれ

少しも変わらないでいられることはない

小生が学生時代お世話になりました

美学教授の口癖の1つが,

「気分概念を大切にしなさいね」

でした

 

先生曰く,

気分がニュートラルではない時に,

何を考えても無駄です,

喜怒哀楽のいずれかに

あまりに振れてしまっているときに,

ものを考えるのはやめなさい,

ということでした

 

分かってはいるけれど,

止められないタチでしたが… 

自分の気分を客観視するのは,

結構難しいことです

 

ですが,マンが言いますように,

気分は時が解決してくれます

 

最近話題の怒りの抑制法で,

怒りが湧き出してから6秒間,

何らかしらの方法で

自分を客観視できれば,

その怒りが消えていく,

というのと同じです

 

昨日,某国営放送の朝の番組に

出演されていた松岡修造さんが,

自分で自分を実況中継すればいい,

とおっしゃっていましたが… 

 

またマンは,愛について

次のようにコメントしています

 

We don't love qualities,

we love persons;

sometimes by reason of their defects

as well as of their qualities.

私たちは人の資質を愛するのではなく,

人そのものを愛する

時には資質のためと同様,

彼らの欠陥のために

 

あの人の…が好きなんです,と言った時,

その人の資質が好きなことになります

ですがマンは,そうしたのは本物ではなく,

その人そのものを欠陥も含め受け入れて

初めて「愛」と言えるのだと言うのです

 

なるほど,この見解からしますと,

相手の部分でしかない

資質ばかりに目が行っているようでは,

ある種スーパーでお買い物するのと

変わらないですものね…

 

ですからマンからしますと,

愛の強さは究極です

 

It is love, not reason,

that is stronger than death.

死より強いのは,

理性ではなく,愛だ

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マンのユーモアが垣間見られる

一言がありました

 

Animals do not admire each other.

A horse does not admire its companion.

動物はお互いにほめない

馬は仲間をほめない

「よく走ったじゃないか!」

「ステキなたてがみね!」

馬同士はそんな事は言いません…

思ってはいるのかもしれませんが…

 

マンにこう指摘されますと,

「ほめる」という行為は,

人間独自のものだということが

わかってきます

 

例えば,教育の現場で最近とみに

言われますことは,

子どもたちが「ほめられる」経験が

あまりにもなさすぎるので,

自尊心が健全に育たずに自己嫌悪に

陥ってしまっている,というものです

 

確かに,

自己嫌悪に陥ってそうな動物など

見たことがありません

こうした心理的な側面を

 

動物に投影してみてみれば,

人間の特異性が自然とあぶり出されて,

非常に興味深いかもしれません

 

さらに「孤独」について,

マンは次のように語っています

 

Solitude gives birth to the original

in us,

to beauty unfamiliar and perilous

- to poetry.

But also, it gives birth to the opposite:

to the perverse, the illicit, the absurd.

孤独は私たちの中にオリジナルなもの,

なじみがなくとてつもなく危険な美,

つまり詩を生む

しかしまた,孤独は反対のものも生む

非道,違法,愚行だ

とりわけ芸術家は,

孤独を愛する人が多いです

自らをそういう境地に追い込み,

そのリスクテイキングの中で

「とてつもなく危険な美」を生み出すべく,

日々オフサイドラインで葛藤するのです

ただそれは下手をすれば,

犯罪の温床でもあります

 

劇作家の野田秀樹さんが

ある時テレビで,

「芸術と犯罪は紙一重だ」

とおっしゃっていました

ともに「非常識」という

共通項があるからでしょう

 

ただしあのピカソは,

とてつもない寂しがり屋で,

孤独には耐えられない性格だったそうです… 

 

ゲーテ然り,宮沢賢治然り,石川啄木然り,

ことばの芸術家である詩人たちも,

美を生み出すべく自ら進んで

孤独の境地に沈潜していきました

結果的にはそれが,

国民や人類の代表として,

かつてだれも踏み込んだことがない

深層にまでたどり着き,

それを言語化し,他の人々にエネルギーを与え,

去っていくのです

 

彼らはなぜそうしたことをしたのでしょうか…

マンが答えてくれていました

 

For the beautiful word begets

the beautiful deed.

というのも,美しいことばは

美しい行為を生むのです

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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