tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:苦しんでいる患者の身になってやるのが本当の医者というもんだ(遠藤周作)

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                                                 July.13.2018

 

 

遠藤周作は,1923年東京生まれの

小説家です

 

代表作には『海と毒薬』『沈黙』

『侍』『深い河』があります

特に『沈黙』は欧米で高い評価を受け,

ノーベル賞候補にもなりました

 

実家がカトリック信仰をしており,

本人も中学時代に洗礼を

受けておられてます

その影響で,

遠藤氏の生涯を通じたテーマは

「日本人でありながら

   キリスト教徒である矛盾」

でした

自らの信仰について思索することを,

「だぶだぶの洋服を

   和服に仕立て直す作業」

と評されていました

 

本日はこの,遠藤周作

名言のいくつかをご紹介したいと思います

(英文拙訳)

遠藤周作 - Wikipedia参照

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まずは,戦後の日本人についての

鋭いコメントからです

 

戦後の日本人はいつの間にか、

働くことと利を得ることを一緒にして

利を得るためにだけ働くようになった。

利がすべての目的に変わった。

利のためにほかのものを

多少は犠牲にしていいという風潮が

社会を支配した

The post-war Japanese have

come to work to gain their own interest,

mixing work with gaining interest.

Interest has taken place of all purposes.

The trend

that we can somewhat sacrifice

the other things for interest

has occupied our society.

 

利益至上主義と化した日本人の

労働価値観を深刻に憂いておられます 

 

「利のために他のものを多少は

    犠牲にしていいという風潮」

という指摘には,戦後日本の

資本主義と高度経済成長による

社会的病が要約されているかのようです

 

続きまして,現代でも十分当てはまる

若者についての一刺しです

 

いまの若い世代にもっとも欠けているのは

「屈辱感に耐える」訓練である。

この訓練が行われないで、

そのまま社会から大人扱いにされると、

おのれのすること、なすことは

すべて正しいと思うようになる

What the youth today is lacking most

is the training

‘to put up with humiliation’.

Without this, if dealt as an adult

though what he is in society,

he may well get to think

what he does or achieves is all right.

 

遠藤氏の活躍された

およそ今から50年ほども前に,

すでにこう仰っていたのです

SNSの普及に伴い,

相互監視社会が本格化する中,

自意識が極めて過剰にならざるを

得なくなっている「若い世代」は,

誹謗・中傷をはじめとする「屈辱感」に,

あまりにも耐性がなくなって

しまっているのではないでしょうか

 

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続きまして,「生活」と「人生」の

違いについてのユニークなコメントです

 

生活と人生はちがいます。

生活でものを言うのは

社会に同調するためのマスクです。

また社会的な道徳です。

しかし人生では

このマスクで抑えつけたものが

中心となるのです

Living and life are different;

the former is featured by the mask

that is used

to bein tune with society,

and is social moral,

while in life, what is suppressed

by this mask is centered.

 

ユング心理学では

個人のアイデンティティを語る際,

「仮面」と「影」

の二元論がよく用いられます

社会生活を営む以上,

私たちはその時その場に合わせた

「仮の自分」をしつらえなければなりません

これが「仮面」です

そしてその仮面をかぶる本人は,

元来の本音を抑圧した形で

社会参加しています

これが「影」です

 

遠藤氏のコメントですと,

「仮面」=マスク,

「影」=マスクで抑えつけたもの

になります

 

生活には仮面が必須ですが,

人生はその影を生きていくことだ

ということになります

 

ですから,時には…

 

人は人の前を横切らずには

生きていけない

One can’t live

without crossing before another.

 

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遠藤氏の比喩力溢れるフレーズを

見つけました

 

黄昏の砂漠は歩きづらいが、

振り返ると波打ちぎわに

自分の足跡が、

自分だけの足跡が、

一つ一つ残っている。

アスファルトの道は歩きやすいが、

そこに足跡など残りはしない

The desert at the dawn is hard to walk on,

while turning back at her,

we can find our own traits,

the very traits of ours, one by one,

on the seashore.

The road of asphalt is easy to walk on,

while we can’t leave our traits there.

 

歩きづらい砂浜には自分の足跡が残り,

歩きやすいアスファルトには

一歩たりともその痕跡は残らない

半世紀も前に,

希薄化する私たちの身体性に

警鐘を鳴らしておられました

 

このコメントから,

手書き文字と活字の現状を想いました

小生は手書き文字こそ,日常で

現在かろうじて残存する身体性

なのではないかと思っています

 

書きにくい紙に書いた字は

くっきり自分の身体性が記録されますが,

入力しやすいデヴァイスに入れた文字は,

ワンタッチで消去すらできます

 

かく言う小生も利用していますが,

音声入力に至っては手を動かす

という身体的動作が消え,

私たちのアイデンティティはもはや

「声」中心になっていきます

IoT社会の到来でこの傾向は

一気に加速していくことでしょう

 

ですが,私たちの身体は

恋愛しないではいれません…

 

恋愛は「くるたのしい」ものである。

「くるたのしい」とは苦しく、かつ、

楽しいを略した私の新造語だが

Love is something ‘sufferaving’,

which is my self-made word

meaning at once suffering and raving.

 

もっとも,この世界でも

「二次元」に恋してそれで十分,

という男女も急増しているそうですが…

 

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身体性と言いますと,

遠藤氏は40代から様々な大病をなさって, 

医学に対する独自のお考えも

あったようです

 

薬は学問の神聖のためにあるんじゃない。

病人たちの苦しみを救い、

病人たちの苦しみに

少しでも希望を与えるために

存在するんです

The medicine is not there

for the holiness of academy;

it is there for the sake of

curing the ill of their suffering

and giving their suffering

what little hope it has.

 

先々週クーラーから風邪をひき, 

喉の調子が悪い状態が

10日ほど続きました身としましては,

本当に薬はこうあってほしい

と願いたい気持ちです

 

山中伸弥教授が外科医をやめ,

基礎研究に専念したいと

思われたきっかけは,

薬で少しだけ延命された高齢の女性が,

山中先生にものすごく感謝している

と仰ったことで,

基礎研究をして新薬の開発ができれば,

一人二人ではなく,

何十万,何百万もの人のお役に立てる

のではないかと想い立たれたから

だそうです

そこから,

あの人類史上に残る

iPS細胞の大発見をされたわけです

 

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遠藤氏も色々な医療従事者の方々と

接してこられ, その「良し悪し」が

否が応でも感じられたことでしょう

 

小生にはたまたま,

風邪をひいて愚痴ると

親身になって心配してくれる

知人の医療従事者がいますが,

イムリーにメッセージを貰えると,

それだけで弱り切っている

身体の免疫力が激増するのが

はっきりと分かります

 

お医者さんは実際の薬以前に,

ことばのお薬も処方できて,

初めて治療をスタートすべきだと思います

 

苦しんでいる患者の身になってやるのが

本当の医者というもんだ

The real doctor is the one

who is ready to be

a suffering patient himself.

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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