tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:人って,誰かと接することで作られていく生き物なんだと思います(是枝裕和)

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                                                May.21.2018 

 

 

是枝裕和氏は,1962年東京生まれの

映画監督,テレビドキュメンタリー演出家です

 

この度,カンヌ国際映画祭にて,

『万引き家族』で,見事に最高賞である

パルム・ドールを受賞されました

日本の作品が同賞を受賞したのは,

今村昌平監督の『うなぎ』以来,

21年ぶりとのことです

 

是枝監督は,2013年にすでに

そして父になる』で

審査員賞を受賞されておられました

 

恥ずかしながら,小生は監督の作品

全てを見てきたわけではありません

ですが,人間心理の襞に棲まうディテールを

ことばを超え映像美とともに描き出されていて,

海外の最高権威の賞さえ受賞されるのも

さもありなん,と腑に落ちました

 

本日はこの,是枝裕和監督の

パルム・ドール御受賞をお祝いさせて頂くべく,

名言のいくつかをご紹介したいと思います

(英文拙訳)

是枝裕和 - Wikipedia

 

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まずは,ご自身の「役割」についてのコメントです

 

世の中には

意味のない勝ちもあれば

価値のある負けもある

もちろん価値のある勝ちが誰だっていい

でもこの二つしかないのなら,

僕は価値のある負けを選びます

そういう人間もいることを示すのが僕の役割です

There are meaningless wins

and valuable losses in the world;

of course, everybody wants valuable wins.

But if I can’t have either of the two,

I’ll choose the latter.

Mine is the role that shows there is such a person.

 

この微妙な選択をされるところに,

是枝監督の感性がうかがえます

 

ではなぜ,映画やテレビで

作品を作り続けておられるのでしょうか

 

僕が映画を撮ったりテレビに関わったりしているのは,

多様な価値観を持った人たちが

互いを尊重し合いながら

共生していける,

豊かで成熟した社会をつくりたいからです

The reason why I make films

or do with the jobs on TV is that I’d like to create

an affluent, mature society where people

with various values can co-exist

respecting each other.

 

単一の価値観ではなく多様な価値観を尊重する

それは手間ひまかかることですが,

人の心と向き合う際には必須のことです

 

パスカルはそれを

数学的な「幾何学の精神」に対するものとして,

「繊細の精神」と呼びました

tsuputon7.hatenablog.com

 

社会システムは得てして構成員の多様性を抑圧します

単一な方が為政者にとって都合がいいからです

 

繊細の精神を重んじる是枝監督の

社会意識が表れている一言です 

 

国家や国家主義者たちが

私たちの多様性を抑圧しようとせり出してきた時には

反対の声をあげる

当然です

これはイデオロギーではありません

When the nation or the nationalists show up

to suppress our diversity,

I will stand up for the opposition;

it’s natural.

This isn’t an ideology.

 

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 今回,

パルム・ドールを受賞されました作品

『万引き家族』では,東京の下町で

万引きしながらでも生活せざるを得ない家族の絆を

表現されておられるそうです

 

監督は「家族」の捉え方について尋ねられた際,

次の様に答えられています

 

バランスは作品事に微妙に変わるけど,

いつも描く時に考えるのは,

「やっかいだけどかけがえのない」というところ

どっちもやりたいなと思っています

The balance changes slightly from article to article,

but what I always think describing them

is “something difficult but invaluable”;

I want to do with both.

 

一方で,監督の作品哲学には

いい感じの脱力感もあります

 

天気ってどうせ思い通りにいかない

曇ったら,曇ったシーンにしちゃえばいい

We can’t change the weather as we like after all;

if it’s cloudy, you can make it a cloudy scene.

 

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是枝監督は独自の日本人論をお持ちです

 

今の日本の問題は,

みんなが被害者意識から出発している

ということじゃないですか

Today, the problems of Japan

are derived from the fact that all of them start

from their victim mentality, aren’t they?

 

ことを起こす前のデフォルト段階で,

不必要な被害者意識がある…

実に当意即妙なご意見です

 

日本では多数派の意見がなんとなく

正解とみなされる

In Japan, the opinion of majority is somehow

regarded as a correct answer.

 

民主主義を全て多数決原理だと思い込むことほど,

恐るべき柔らかいファシズムはありません

 

同調圧力の強い日本では,

自分の頭でものを考えるという訓練が

積まれていないような気がするんですよね

In Japan, where the peer pressure is so great,

people haven’t been trained

to think by themselves very much.

 

赤信号みんなで渡れば怖くない

若かりし頃のビートたけしさんの名言です

 

外国の方と少し仲良くなりますと

すぐに気付かされますことですが,

他人の目を気にする同調圧力に弱い自我形成を

ここまでしてしまっている近代資本主義国家は,

日本だけでしょう

 

議論と討論,批評と悪口の区別がつけられない

良くも悪くも,理性と感性がボーダーレスな

日本社会の空気感のなせる技です

 

自分なりの解釈を加えることに対する不安が

とても強いので,批評の機能が弱ってしまっている

People are so anxious

about adding their own interpretation to something

that their functions of criticism are weaken.

 

ですが,

大谷翔平選手や藤井聡太さんのような

目覚ましい活躍をされる若者を見ますと,

自然でしなやか,でも強い自我を感じます

 

現に,最新の研究では

日本人は実は集団主義的ではなく,

西欧人より個人主義的だとする学者もいます 

tsuputon7.hatenablog.com

tsuputon7.hatenablog.com

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是枝監督の人間論には,自然さが溢れています

 

耐えられる人は耐えればいい

でも,耐えられない人は無理すべきじゃない

Those who can put up with it should do so;

those who can’t shouldn’t try to.

 

一方で「口だけの人」には手厳しい一撃が…

 

偉そうなことを言う前に,

とりあえずやってみれば

Before saying something authentic,

anyway, why not do it?

 

ですが,人を見つめる監督の眼差しには,

嫌味のない優しさがあります

 

空っぽな部分に自分ひとりで何かを入れようとしても,

満足感は得られない

なぜなら,自分では同じものしか入れられないから

You can’t be satisfied by trying

to put something into your empty space alone,

because you can put only the same by yourself.

 

人間とは,「人」と「人」の「間」です

磁力の様に心を持つからこそ,

引き合いもし,反発もします

 

人は心を持たないほうがラクなんですよ

心を持つということは辛いことですから

A person can feel easier without a heart,

because having it is suffering.

 

万事が「幾何学の精神」で済めば

どれほど楽なことでしょう

 

チベット語でいきもののことを

セムチェン」と言います

セム」は「心」,「チェン」は「持つもの」,つまり

いきものとは「心を持つもの」のことです

人も含めた生きとし生けるものすべてが,

いついかなる時であれ,「心」で繋がっている

 

ですが,人は弱い

弱いので,お互いの心に絶えずエネルギーを

与え合わずにはいられないです

 

人って,

誰かと接することで

作られていく生き物なんだと思います

As I see it,

a person is a creature

that is made by getting touch with someone.

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

tsuputon7.hatenablog.com

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