May.9.2018
荒俣宏さんは,1947年東京都生まれの
1985年にサラリーマンをしながら書き上げられた
『帝都物語』シリーズで
鮮烈な文壇デビューをされました
その後,比類なき博覧強記ぶりで,
『世界大博物図鑑』を仕上げられました
この図鑑作成資料のために博物学の古書を購入され,
1億4000万円の借金を負われましたが,
『帝都物語』の印税1億5000万円で返済された,
という逸話があります
稀代のビブリオマニア(書籍収集家)で,
これまで書籍に投じられた金額は5億円だそうです…
あまりの本のコレクションのために,
家の床が傾いてしまい,新築をしたときには
床の下に鉄板をひいたとTVで仰ってました…
神秘学・妖怪学については,
師事されました
本日はこの,荒俣宏さんの名言を
いくつかご紹介したいと思います
(英文拙訳)
まずは,荒俣さんから見た
今の若い人たちについてのコメントです
現在の若い人たちを見ると、
世の中に合わせて「自分を変えよう」
と焦っている人が多いように思います。
Seeing the current youth,
I feel many are frustrated
to ‘change themselves’ to fit to the world.
ネット社会化が爆発的に加速する中,老若男女問わず
ますます「相互監視」の雰囲気が濃厚になりつつある
昨今です
とりわけ若い人の中には,
そのせいか色んな「マスト」にがんじがらめにされた
「頭の固い」人が逆に増えている気配さえあります
荒俣さんはそうした人たちに,
次のようにアドヴァイスしています
それが悪いことだとは言いませんが、
何かを成し遂げたいことがある人は、
むしろ「自分を変えないこと」に力を注ぐべきです。
自分が変わらずに、
周りが変わるのを待てるかどうか、
そこに成功の分水嶺があるような気がします。
I don’t say that’s bad,
but those who want to achieve something
should rather try ‘not to change themselves’;
as I see it, whether they will make it or not
depends on their decision to wait
until the surroundings change,
without changing themselves.
この「積極的受け身の美学」こそ,
荒俣さんのユニークな視点です
「自分を変えないこと」と言いますと,
スティーブ・ジョブズの名言が連想されます
あなたの心と直感は
すでにあなたが本当になりたいものを知っている
それ以外は二の次だ
自分の心と直感に従う勇気を持ちなさい
スティーブ・ジョブズの書斎
荒俣さんはサラリーマン生活をしながら,
処女作『帝都物語』を書かれました
その頃を振り返って,
次のように述べておられます
僕の30代の初めと終わりを比べると、
たしかに劇的な変化といえるかもしれません。
しかし僕は、変わったのは自分ではなく、
世の中の方だと思います。
Surely, comparing my early 30’s with the later,
there may have been a dramatic change;
however, it wasn’t I but the world
that had changed.
ご自分の人生の岐路に立たれても,
「積極的受け身の美学」の姿勢を貫かれたのです
忍耐こそ人間の最大の能力である
とブッダは言いましたが,
荒俣さんはこのことばを
文字通り生きてこられた方です
芥川龍之介の書斎
脱サラされた時の御心境を振り返り,
こう仰っておられます
32歳のときにサラリーマンを辞めたのですが、
それも仕事で身につけたコンピュータの知識があれば、
会社を辞めてもなんとかやっていけるだろう
と考えたためです。
相変わらず、自分のやりたいことで
生計を立てられるとは考えていませんでした。
I quit my job as a salaried person at 32,
thinking I would manage to do well
with my knowledge of computing
I’d acquired through the job,
even if I would retire.
Nevertheless, I never still thought I’d be able
to make my own living by doing
what I wanted to do.
また1980年頃ですから,
コンピューターで身を立てるということ自体が
稀な職業で,それ相応の勇気が必要だったはずです
ですが,
荒俣さんの学問に対する情熱と書籍に対する思いが
はるかに勝っていたのです
好きなことを本当に守るためには、
それよりは好きじゃないことを
捨てられる覚悟がないと、
ほんとうに好きなことは守れない。
To protect your favorite really,
you can’t if you don’t have the decision
to abandon what you like less.
アインシュタインの書斎
こうした人生を歩んでこられた荒俣さんが,
しばしば口にされることばが,
意外にも「あきらめ」です
自分のやりたいことのためには、
何かをあきらめなくてはなりません。
会社の仕事も、
睡眠時間を削ることも、
30歳当時の僕は、
必要な犠牲だと考えていました。
To do what you want to do,
you have to give up something;
at the age of 30 then,
I thought it was necessary sacrifice
to cut off the work at my company
and the time for sleep.
二兎追うものは一兎を得ず,です
あきらめは、
もったいないことではないのだ。
あきらめないで、
何もかも中途半端になったり、
何もかも手に入らないよりは、
もったいなくないのだ。
Giving up isn’t wasteful.
It’s less wasteful
than doing everything so-so,
or getting nothing.
「決してあきらめるな!」
とする偉人の名言は沢山ありますが,
「あきらめ」に積極的価値を
見出されておられるあたりが,
荒俣さんのただ者でなさを表しています
荒俣さんの境地は,
仏教的アプローチに酷似しています
仏教には,伝統的に「あきらめる」とは,
「諦める」=「明らめる」で,
知恵の証であるとする考え方があります
煩悩への執着を手放すことが,
自分の心を解放して,
悟りに迎えるとするのです
こうした荒俣さんの忍耐力は超人的なものです
なんでもいいから30年、
『何か』を続けるんです。
そしたらそれはどんな事でも
『本物』になっちゃいます。
Do continue ‘something’ for 30 years,
whatever it is;
then, no matter what it is,
it will become ‘something genuine’.
好きこそ物の上手なれも,
ここまでいくと上手どころか,
匠の世界にまで肉迫することでしょう
とは言え荒俣さんは,
働きながらの執筆や,途轍もない借金をしてまでも
好きな書籍を集め続けるという,
ひたすら動き続けての「待ち」の姿勢でした
そこにはしっかりとした「ビジョン」があったのです
人生の脚本を書き、
演じるのは自分。
It is I myself that writes the scenario of my life
and perform it.
そして荒俣さんの学問的好奇心は,
決して尽きることはありません
勉強はゴールのないマラソンだ。
Study is a marathon without a goal.
それでは,このへんで
The Theological Hall, built in the 1670s, at Strahov Monastery in Prague