tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:砂漠を泳ぐ魚に出会ったような意外さ(安部公房)

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René Magritte: Homesickness 

 

                                                   April.10.2018 

 

 

安部公房は,1924年東京生まれの

小説家・劇作家・演出家です

 

東京帝国大学医学部医学科を,

「医師にならないことを前提とした条件付き」

で卒業し,終戦直後に小説家となられました

 

その作品は海外でも高い評価を受け,

晩年にはノーベル文学賞の有力候補と

言われていました

 

代表作は以下のものがあります

』 (1951年)
砂の女』 (1962年)
他人の顔』 (1964年)
燃えつきた地図』 (1967年)
友達』 (1967年、戯曲)
箱男』 (1973年)
密会』 (1977年)
方舟さくら丸』 (1984年)

 

個人的には『砂の女』の映画を

中学生の時にテレビで見て,

あまりにも見たことのない世界すぎて,

夜,寝付けなかった経験があります

 

本日はこの,戦後日本社会の中で

比類なき独自の道を切り開き続け,

シュールレアリズムの世界を作られた,

安部公房の名言をいくつか

ご紹介したいと思います

安部公房 - Wikipedia参照

(英文拙訳)

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 まずは,現代日本にとってさえ痛烈な一言からです

 

「秩序=騒がない世間」という発想は、

それ自体、創造行為の圧殺なのである。

The very idea, “The order is the tame world.” is

in itself the suppression of creative activities. 

 

芸術は狂気の発動です

常識,ルール,秩序の枠内に収まりうるのであれば,

それは生産物ではあっても創造物たり得ません

 

芸術は私たちの無意識を意識化してくれるべきもので,

常識的に理解できるのであれば感動も驚きも

あり得ません

 

tsuputon7.hatenablog.com

 

公房さんは常に体制的な秩序による抑圧と

ペンで戦い続けた方でした

しかもそれはただ単純に政治的プロパガンダによって

反体制を唱えるだけのものではなく,

あくまで美的価値を損なわない,

シュールレアリストとしての

純粋芸術性を保ってのものでした

 

同じ Abe でも,あの方とは異次元の美しさです

その違いは次のコメントでも一目瞭然です 

 

開かれた歴史というものは、いつだって、

均一性よりは多様性に、

定着よりは移動性に、

保守よりは進歩に、

正統よりは異端のために

用意されているものなのだ。

いたずらな秩序と安住の前には、

歴史はただその幕を閉ざすだけである。

The open history is always prepared for

diversity rather than uniformity,

transition rather than settlement,

progress rather than conservation,  

the extraordinary rather than the traditional;

the history just closes the act

before the order and steadiness.

 

均一性,定着,保守,正統…

「いたずらな秩序と安住」を求めているかのような

現代の Abe を見たら,

公房さんはなんと仰ることでしょう

 

先日他界されましたスタジオジブリの創設者,

高畑勲監督も,現代日本を憂えて,

平和で公平な国で迎えたい,

と呟いておられたそうです

 

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René Magritte: La Victoire

 

 

続きまして,「絵葉書」についての鋭い洞察です

  

昔は、名所があってから、

後で絵葉書が出来たもんだ…

ところが今じゃ、まず絵葉書…

それから名所が出来るってのが常識なんですね。

There was, once, first a landmark

and then a picture postcard...

but now, first the latter...and then the former,

as the common sense goes, isn’t it?

 

すでに公房さんは,昭和の時代に

自然/人工,アナログ/デジタル,つまり

リアル/ヴァーチュアルの境界線が

希薄化してきていたことを告発されていたのです

 

そこには時代の意識/無意識の境界線が

刻々と解除され蒸発していくあやうさを,

絶妙な距離感で観察し続けようとする

公房さんの俯瞰する目がありました

 

意味があれば気にしないですむ。

意味がないから、気になるんだ。

I don’t have to care for something meaningful,

but something meaningless makes me care for it.

 

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René Magritte: Dieu le huitieme jour

 

さらに公房さんのキレキレのことばをいくつか…

 

同情はしない。

同情なんて、

観光ポスターみたいなものだろう。

I don’t sympathize.

Sympathy may be

something like a sightseeing poster.

 

同情 ≒ 観光ポスター…

共感に利害関係はありませんが,

同情は営利目的のにおいがするものです

  

微笑みこそ表情の三角形の中点、

完全な無表情であったのだ。

It was a smile that was

the middle point of an expression,

a perfect absence of expression.

 

表情の三角形…各頂点は明・暗・中でしょうか…

そして微笑みは「完全な無表情」として中点!

ただただ,ハッとさせられることばです

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また,聞くとその通りです,

としか言えないものが…

 

道にこだわりすぎるものは、

かえって道を見失う。

Whoever clings to the way too much

loses it all the more. 

 

何か始めようとするのに,「どうやって」ばっかり

考えてしまって,いっこうに始められない,

あの感じですね…

 

「孤独」については…

 

孤独とは、幻を求めて満たされない、

渇きのことなのである。

Solitude is the thirsty that we feel unsatisfactory,

chasing an illusion. 

 

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René Magritte: La Mort des Fantômes

 

 

なんだか公房さんのことばの全てが,

小さいけれど何でも斬り裂けるナイフのように

思えてきました

 

人間は、化物をみて怖がるのではなく、

怖がるから、化物を見るのだという。

I hear people don’t fear seeing a specter,

but fear a specter, fearing it.

 

今でこそ「流行って」いますアドラー心理学でも

ほぼ同じことが言われています

tsuputon7.hatenablog.com

 

「悲しみ」については,どうお考えですか?

 

悲しみはお茶の味を良くするものです。

だからきっと僕は悲しかったに違いありません。

Sorrow will make the taste of a cup of tea better;

so, I must have been sorry.

 

この,「離人感」…

 

ドストエフスキー

一杯のお茶のためなら,地球など滅びてもよい

と言いましたが,

地球より大きい悲しみがあったので,

その分お茶が一層美味しかったのでしょう

 

 

そして最後に,小生の全くの個人的好みですが,

好きすぎてコメントを控えさせて頂きたい

至言です

 

砂漠を泳ぐ魚に出会ったような意外さ 

The unexpectedness

as if to encounter a fish swimming in the dessert 

 

…………

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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 René Magritte: Monde Invisible