tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:癒やし、という言葉が嫌いです。(高畑 勲)

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                                                  April.8.2018 

 

 

高畑勲監督は,1935年三重県生まれの

映画監督・アニメーション演出家・

プロデューサーです

 

スタジオジブリ宮崎駿監督とともに設立し,

アニメーションの魅力を日本だけでなく

世界に知らしめた方です

 

手掛けられました代表的作品には

このようなものがあります

 

アニメーション映画

 

テレビアニメ

 

個人的には,ものごころついた頃には,

パンダコパンダ』にはお世話になっており,

その他の作品にも

様々な思い出が残っています

 

本日は,先日他界されました

高畑勲監督のご冥福をお祈りしつつ,

その名言のいくつかを

ご紹介したいと思います

高畑勲 - Wikipedia参照 

(英文拙訳)

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まずは,  高畑監督の

仕事に対する姿勢がうかがえる一言です

 

どれもこれも大事そうに見えて、

漫然と手を広げすぎるよりは、

ひとつのことだけ集中して学ぶというほうが、

ずっと、おもしろいものに近づくと思います。

I think I can approach something interesting

much closer by learning only one thing

concentrating on it than trying to hold many vaguely,

regarding this and that as important.

 

日本人は世界一雑学が好きな民族と言われています

直接自分の役に立とうと立たまいと,

浅く広く知ることに喜びを感じやすいです

ですがこれは,結構レアな民族性のようです

 

小生の個人的経験では,

とあるアメリカ人との話し合いの中で

それを痛感したことがあります

そのアメリカ人アレックスが

「クラシックが好きなんだ」と言うので,

「誰が好きなの?」と聞きましたら,

「ベートーベン」と

 

そこで小生が「モーツァルトは?」と聞き返しますと,

「名前は聞いたことあるけどどんな曲か知らない」

驚きを隠せないうちに, 

逆にこちらの好みを聞かれました時に,

ベートーベンなら「月光」,

モーツァルトなら「フィガロの結婚

と言いましたところ,

「僕はベートーベンの作品は全て知ってるけれど,

モーツァルトは全然知らない,

でも,クラシックって何かわかる気がする」

と自信たっぷりに返されました…

 

広く浅くではなく,

1つのことを深く深く掘り下げ普遍に達する

 

そういう意味では,

高畑監督の姿勢は脱日本人的だったのかもしれません

 

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一方で高畑監督は,日本文化の良いところを

見る人たちに伝えようとし続けられました

 

日本文化のおもしろさやすぐれた点を知ると、

おそらく放っておいても

日本を愛するようになるはずです。

If one knows something interesting or superior

in Japanese culture, perhaps the person will

surely get to love Japan naturally. 

 

どうしても日常生活の中で,

マスコミやジャーナリズムの一方向的な

情報インプットだけに頼ってしまいますと,

いつの間にか「自虐的」な日本人観を

持たされてしまう空気感があります

 

それは,日本の「良くない」点や

海外に迷惑をかけてきた歴史などを

過剰に強調する情報の方が,

良い点を強調する情報よりも

はるかに多いからでしょう

 

高畑監督は,日本古来の「面白さや優れた点」を

アニメーションに埋め込むことで,

それを見た人が自然と

日本を愛するようになれるよう

苦心されていたのです

 

たとえば『火垂るの墓』では,

戦争という背景を通じ

命の儚さが蛍の光のようであるというメタファーを

使いながらも,生きていられた命を

限りなく大切に生き抜こうとする兄と妹の

美しい絆を表現することで,

日本人が心の深層で何を大切にしているか,

見るだけでわかるように赤裸々に

発信されていたのだと思います

 

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続きましては「癒やし」についての,

じつに奥深い見解です

 

癒やし、という言葉が嫌いです。

病気になる前の状態に回復するのを繰り返すだけで、

その先には進まない。

自分の快不快だけに関心があり、

他者の存在が感じられない。

I don’t like the term healing;

it means only the repetition of recovery

to the prior state before getting ill,

and never going ahead.

The person is interested

only in the person’s own pleasure or displeasure,

and there doesn’t seem to be another. 

 

「癒やし」に生産性・創造性はありません

それはマイナスが前提のゼロへの回復であり,

新たなエネルギーがそこからさらに生まれ,

その人の次のステップへの飛躍にはなりません

「癒やし」は既に自らの「限界」設定が

なされた上での自己満足的営為に過ぎません

tsuputon7.hatenablog.com

 

高畑監督はそこに「自分」しかいないことへの

疑念を投げかけておられました

つまり,ナルシシズムです

 

ナルシシズムに本当の愛は存在していません

ギブ・アンド・テイクではあるとしても,

ギブ・アンド・ギブにはなり得ないからです

見返りを求めない「無条件の愛」こそが,人に

生きていくエネルギーと勇気と意志を与えられます

高畑監督は「他者」不在の「癒やし」に対する

強い懸念を表しておられました

 

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監督は,ことあるごとに

「客観的であること」の効用を語っておられました

 

外側からものを眺めていると、

けっこう世の中、

おもしろいことばかりなんです。

Looking at the things from the outside,

I can find so many interesting things

in the world unexpectedly.

 

自分が何か悩みやトラブルに巻き込まれ,

その渦中にいる間は,袋小路に陥ったりして,

とても「おもしろい」とは思えません

心の余裕がないからです

 

ですが,高畑監督は

「外側から」眺める目線を持てれば,

世の中には面白いことばかりだと仰います

 

みんなが、他人のことも自分のことも、

まずは客観的に突き放してみる立場を確保しないと

いけないんじゃないんだろうか、ということは、

ずっと考えているんです。

そうでなければ「笑い」もありえないし。

I have been thinking 

everybody should establish the place

where the person can first look at others

and the person himself objectively;

otherwise, there will be no ‘laughter’. 

 

名役者は「自分を見る自分」が

演技している自分を眺めているかのように感じられる,

と言います

まるで操り人形を操るかのように,

役を演じている自分を操る

こうした目線は,一芸に秀でた方々は口を揃えて

「持っている」と仰ることかも知れません

 

あのチャップリンもこう言っていました… 

tsuputon7.hatenablog.com

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さらに高畑監督は,日常的な例でも

「客観的」である事の効用を説かれていました

 

「たのしみにしていた遠足の途中で

雨が降ってしまったらつまらなくなる」かどうかですが、

雨でたいへんな目に遭ったことの方が、

かえって印象に残ってしまうほうが多いですよね。

あとから客観的に見れば、

「それも、よかったことではないですか?」

ということです。

As to whether it will not be interesting,

if it rains on the way of the expected excursion,

we will be impressed rather more

when we happen to be caught in the rain

and get into trouble.

Looking back at it objectively later,

we will say, “Wasn’t it so nice?”

 

どうしても小生などは,

日常的なことにこそ「感情的」になってしまい,

主観の塊となってでしか対処できないかのように

思ってしまいます

近くで見て悲劇でしかないことも,

高畑監督が仰るように,

それは強い思い出となって後々

「よかったこと」とさえ思えるようになれれば,

逆にその分,心が豊かになりえます

距離を置いて「自分を笑うこと」で,

心の力がついていくものです

 

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これはぼくが年をとったせいかもしれませんが、

客観的に見れば、人間っていうのは

非常に単純なことで満足できるように思います。

I’m afraid because I’ve got older,

I think we human beings can be satisfied with

something very simple, looking back it objectively. 

 

悟りとは感情をコントロールすることである

仏陀は仰りました

感情に左右される自分ではなく,

そうした感情持ってしまっている自分を客観視すること,

それが悟りであると

 

もはや高畑監督の仰っておられた「客観的」とは,

悟りに至るベクトルを示されたことばだったと思われます

 

 

本日4月8日は,仏陀のお誕生日,花祭りです

この花祭りの日に,高畑監督のご冥福を今一度,

心よりお祈り申し上げたいと思います

 

                                                                             合掌

 

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広隆寺弥勒菩薩半跏思惟像

tsuputon7.hatenablog.com