tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:だから生物は、「自由であれ」と命じられているとも言えるのです。(福岡伸一)

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                                                    March.16.2018 

 

 

福岡伸一氏は,1959年東京都生まれの

生物学者です

 

生物と無生物のあいだ』『動的平衡』などの

著作でも知られています

これらの著作は,

単なる生物学者の論文調のお堅い文章ではなく

一般向けである一方で,実に深い造詣に裏打ちされた,

端的明瞭さが特徴です

 

狂牛病研究の専門家でもあられ,

やはり国産牛肉は外国牛肉と比べ

検査基準が最も厳しいので,

信頼できるとおっしゃっています

 

時折テレビ出演などもされており,

お話しされることもさることながら,

そのお人柄も相まって,

つい見入ってしまいます

 

本日はこの,  独自の論を展開される

福岡伸一博士の名言のいくつかを

ご紹介したいと思います

(英文拙訳)

 

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福岡伸一博士 

 

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まずは,  博士が生命現象も含めて

この世界全てを支配していると考えられておられる,

熱力学第二法則エントロピー増大の法則」について

コメントされているものからです

 

生命にとって、

なぜ分解=壊すことがそれほど大切なのでしょうか。

この世界がエントロピー増大の法則に

支配されているからです。

Why is it so important for life to dissolve,

break things ?  

This is because this world is controlled

by the law of entropy increase.

 

エントロピー増大の法則」とは

     秩序があるものは、

     その秩序が崩壊される方向にしか動かない

とする考え方です

 

極めて俗的解釈をしてよろしければ,

「きちんとしているものは,必ずぐちゃぐちゃになる」

ということです

 

博士はこの見地から,

生命史について次のように述べられます

 

この不可避の流れに抗するために、

生命がとったのが自らを常に壊し、

再構築するという自転車操業的な在り方でした。

Life has chosen to be something

that always breaks and re-construct itself,

like riding on a bicycle,  

to regist this inevitable flow.

 

破壊と再生

それが生命現象の根源だとおっしゃるのです

 

このイメージを,

博士は日常的な風景の中に落とし込んで,

こう表現されます

 

この法則は、日常的な場面でも現れます。

整理整頓しておいた机の上は、

1週間もすればグチャグチャになります。

煎れ立てのコーヒーはやがて冷たくなります。

熱烈な恋愛もやがて冷めます。

This law appears in our everyday scenery;

The things tidied up on the desk

will be a mess within a week,

the coffee just made will be cooler before long,

and the passionate love will calm down before long. 

 

つまり,  文字通り日常茶飯事はすべて

エントロピー増大の法則に従っています

 

掃除をしても,ほこりはたまります

どれだけ仲の良い友達でも,喧嘩はします

一所懸命おしゃれしても,一日の終わりには

必ず部分的に崩壊しています

 

つまり不変のものは何もない,

ということです

 

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博士の発言のユニークな点は,

分子レベルから生命現象を捉えた上で,

私たちの心にまで言及されるところです

 

今日、何か悩ましいことがあったとしても、

分子のレベルで考えれば、それさえも流転している。

だから生物は、「自由であれ」と命じられている

とも言えるのです。

私が伝えたいのは、

こうしたポジティブな

無常観というべきものです。

Even if you have something troublesome today,

considering it at the molecular level,

even it is flowing;

so, we can safely say

that life is ordered to be ‘free’.

What I want to say here is, as it were,

this positive view of life

as something transient and empty. 

 

万物は流転する

古代ギリシャの哲学者たちが考えていたことが,

最先端の科学者の口からしみじみと,

確信を持った上で語られています

生物は「自由であれ」と命じられている…

 

とかく「自然」と言いますと,どうしても

私たちの日常的身体感覚を基準に

捉えてしまうものですが,

「自然科学」者にとっては,もちろん

分子の動きも自然現象ですので,

博士はその視点からお考えです

 

エントロピー増大の法則からしますと,

秩序に縛られ続けることは不自由・不自由ですから,

実にシンプルな自明の理となるのです

 

私たちを構成する分子はやがて

空気中に流れ出していって、

次には海の一部になるかもしれないし、

岩の一部になるかもしれない。

生物とは、そうした流れの中にできた

一瞬の淀みのようなものです。

The molecules that composes us

may flow out into the air soon,

next become a part of the sea,

and then a part of a rock;

life is something like a momentary pool

that has emerged in such a course. 

 

エントロピー増大の法則からしますと,

私たちの身体は分子の循環系の中では

川の途中の淀みにすぎないのです

 

賢治の直感の確からしさが想われます

 

わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈のひとつの
青い照明です

 

tsuputon7.hatenablog.com

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福岡博士は,

ある意味でガチガチな生物学者でおられるのと同時に,

詩情豊かに私たちの日常的な内面世界にも

ふわりとメッセージを発信し続けられます,

稀有な才能をお持ちの方です

 

例えばその感性は,

次のことばに端的に現れています

  

すべての情報を日々分解して洗い流し、

さらに新たな情報やエネルギーを

取り入れていくことが生命の本質だとしたら、

上司や顧客のひとこと、

自身のブログに書かれた批判

といった些細なことに動揺し、

いつまでも拘泥することが

いかにくだらないかと思えます。

If you notice that  the essence of life is

to break and wash out all information,

and acquire new information or energy every day,

 you can surely feel it so ridiculous

to be confused by and attach to such a trifle thing

endlessly as a word of your boss or customer,

a criticism to your blog article.

 

…たしかにくだらない!

 

くよくよ悩んでしまう日常,

人間関係による軋轢,

自分に対する評価,

それら全てが生命の本質からすると

全く「不自然」な営為であり,

エントロピー増大の法則からしますと,

正反対のベクトルに向かおうとしているだけの,

人の悲しい性です

 

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博士は,  生命現象を

「絶え間ない流れ」と考えておられます

 

生命のあらゆる組織や細胞は、

日々新たにつくられ更新され続けています。

分子レベルで見ると、

今日の自分と明日の自分は

まったく違う存在といえるのです。

常に変わりつつ一定の状態を保っている。

その絶え間ない流れ自体が

生きているということです。

All of the organizations and cells of life

have been made newly and renewed every day.

As for the molecular level,

we can say what we are today are totally different

from what we will be tomorrow.

To always change and keep the constant state,

the endless flow itself is living. 

 

こうした意味で,  博士は, 

生命は常に「揺らいでいる」,

と考えておられます

 

裏返して言いますと,

一切微動だにせず威厳たっぷりに

鎮座ましましている状態というのは,

生命現象の逆ベクトルに向かうもの

だということになります

 

tsuputon7.hatenablog.com

 

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さらに博士は,

「謙虚さ」についてでさえ言及されます

 

自分は威張ってなどいないという人でも、

謙虚になることは必要だと思います。

知的であることの最低条件は、

自己懐疑ができることですから、

謙虚さは、その出発点になるのです。

I think it necessary even

for those who they say do not boast

to be modest.  

The minimum condition of being intelligent

is the ability of doubting oneself;

so, modesty is the starting point.

 

自分が間違ってるかもしれない,

という自己懐疑を前提とした上で,

可能な限り真摯に正確性を求めて

研究結果を発表する,

それが真っ当な学者のあるべき姿です

 

そうした姿勢を保つには

「知的謙虚さ」は必須なものです

自分がものを知っていると威張る暇がある段階で,

自らの学者としての資質のなさを

露呈することになることにつきましては,

2500年ほども前のソクラテスの時代から,

賢者たちが延々と忠告をし続けてきました

 

知的謙虚さがなければ,

自分の思い込みを変えることができず,

変化しようがありません

つまり,エントロピー増大の法則に

反することになってしまいます

 

博士はそうした警告も含めた上のことでしょう,

「マンハッタンで見つけた科学と芸術」

と言う副題のついた,

次のような題名の著者も出しておられます

 

『変わらないために変わり続ける』

“To Keep Changing Not To Change”

 

生々流転する万物の一部として私たちは,

変化することこそが自然に生きることであり,

何かにしがみつき,動かず,

考えも変えられないことが

自らを不自然に,  

不健康にしてしまっているのだ

ということを,  今一度気づき直すべきだと,

博士は静かに強くメッセージを送られています

 

それでは,このへんで

 ごきげんよう!

 

tsuputon7.hatenablog.com

 

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