Feb.6.2018
植物学者・生物学者・民俗学者です
南方熊楠は日本人の可能性の極限だ
とまで言わしめた人物です
生涯で『ネイチャー』誌に51本の論文が掲載されて,
現在に至るまで単著としては
歴代の最高記録であるとされています
幼少期から驚異的記憶力で知られていました
いわゆる「カメラアイ」の持ち主で,
一度目にしたものを写真のように
脳に焼き付けて覚えることができました
小学校の頃、友人宅の全105巻の百科事典
『和漢三才図会』を,その家に通って覚え,
自宅に戻ってその記憶から書き起こし,
全て筆写してしまったほどでした
1883年,和歌山中学校を卒業し上京,
神田の共立学校(現・開成高校)に入学しました
その後大学予備門(現・東京大学)に入学するも,
2年足らずで中退します
その後,アメリカ留学を経たのち,
大英博物館に就職しました
性格も規格外で,癇癪持ちだったため,
生物学研究で気を落ち着かせていると
柳田國男に手紙しています
そのずば抜けた記憶力で
西欧諸語やサンスクリット語など,
18言語を会得していました
また日本人として初めて
知られています
粘菌のサンプルを桐箱には入れず,,
キャラメル箱に入れて献上しました
とてもご興味をお示しになられたそうです
昭和天皇は次の様な句を残されています
雨にけぶる神島を見て
天然記念物・和歌山県神島(かしま)
熊楠が保存活動をしました
本日はやんごとなき目上の御方との
シンクロニシティが重なり,
熊楠に非常にご興味がおありとのことでしたので,
記事にさせて頂きました
それではこの,逸脱度ゆえでしょうか,
現在でもあまり義務教育では教えられていないのに
20世紀初頭に世界が本国より先に大絶賛しました
南方熊楠の名言を,
彼の人物像をよく表しているものをメインに
いくつかご紹介したいと思います
(英文拙訳)
粘菌
熊楠研究で知られています中沢新一氏は,
著書『森のバロック』で次の様に彼を評しています
熊楠が特に優れていたのは、
「西欧近代文明という脅威に、
日本はどう立ち向かうべきか」
という独自のビジョンを示した点でしょう。
大学予備門では同窓生だった熊楠は,
彼らとは全く違う,他者には真似できない
経歴を踏みました
そのスタンスは始めから,
一歩も西洋人に引けを取っていませんでした
次の逸話がかれの気概をよく表しています
熊楠は学術誌への投稿などの実績から、ロンドン大学の総長ディキンズに認められ、総長室に招かれた。総長は熊楠に、自分が書いて出版したばかりの力作「英訳 竹取物語」を見せる。熊楠は熱心にその原稿を読み始めたのだが、訳におかしいところがあると、首を振ったり、「これはいかんいかん」と首を大きく振ることさえあった。この態度を見て総長は激昂した「日本ごとき未開国から来た野蛮人は、外国の長老に礼を尽くすことを知らぬのか」しかし、熊楠はこれを聞いてひるむどころか総長を一喝した。二人は当然喧嘩別れになったが、その後、総長が熊楠の言うことはもっともだと思い直し、熊楠に率直に詫びた。それ以来二人は生涯の友になった。
この時熊楠は,次のように一喝したと言います
相手が高名な学者じゃからちゅうて,
間違っちょるもんを正しいと
心にもない世辞を並び立てるような未開人は
イギリスにはいても日本にはおらん!
誤りを正すほどの気兼ねもない卑屈な奴など
生きておっても何の益もない!
Even if the other is a prominent scholar,
there is no barbarian in Japan, contrary to Britain,
who compliments against his will
that wrong things are correct!
The mean people who don’t have guts
to correct the wrong cannot be worthy of his life.
また,こうも付け加えました
権威に媚び
明らかな間違いを不問にしてまで
阿諛追従する者など
日本には居ない
There is no one in Japan
that follows someone else silently,
flattering an authority
and not questioning clear faults.
阿諛(あゆ)とは「へつらうこと」です
たったひとりの「日本代表」として,
何と雄々しく気魂溢れることばでしょう!
ミナカテラ・ロンギフィラ
そもそも熊楠は,日本にいた時から
権威主義には徹底して反旗を翻していました
大学予備門を退学した時には…
こんなことで一度だけの命を賭けるのは
馬鹿馬鹿しい
It’s ridiculous to spend only one life
on such a thing.
さらには…
肩書きがなくては
己れが何なのかもわからんような
阿呆共の仲間になることはない
it is no use to be a fellow with the foolish people
who can’t understand who they are
without their social statuses.
単なる犬の遠吠えではなく,
既に日本国内では収まり切れない
無尽蔵のポテンシャルが
熊楠自身の中でふつふつと湧いていて,
それが炸裂した瞬間だったのでしょう
熊楠は粘菌学者や植物学者として
世界的に知られています
粘菌ミナカテラ・ロンギフィラ,
ミナカタホコリには
彼の名が冠されています
和歌山の那智の森は
誰にも邪魔されることのない
彼の実験室であり続けました
晩年は籠る様にその森の中で研究にいそしみ,
次々と発見を繰り返していました
彼の宇宙観と人智についてのフレーズがあります
宇宙万有は無尽なり。
ただし人すでに心あり。
心ある以上は
心の能うだけの楽しみを
宇宙より取る。
宇宙の幾分を化しておのれの心の楽しみとす。
これを智と称することかと思う
The whole universe is inexhaustible.
However, we human beings have already had minds.
As we have them, we take
as much pleasure as possible
to satisfy them from the universe.
We make some of it the pleasure to our minds;
this is called wisdom, as I see it.
ここには宇宙の一部としての
熊楠のアイデンティティが端的に宣言されています
ミナカテラ・ロンギフィラのスケッチ
彼は稀代の蔵書家でもありましたが,
その学問スタイルは徹底した「現場主義」でした
学問は活物で書籍は糟粕だ
Learning is a living thing, so books are the essence.
生きた野生の学問こそが熊楠の主眼であり,
書物はその酒かす,肝心な酒を捨てて
残されたものだと言うのです
というのも…
世界に不要のものなし
ありとあらゆる森羅万象に行き渡る知性,
それを極めていくことに生涯をかけ,
後世に多大な業績を残し熊楠は去りました
日本におけるエコロジーの先駆者として,
このメッセージはあまりにシンプルです
それでは,このへんで
南方曼荼羅:熊楠の宇宙観を表すとされます
「ル」「ヌ」の直線状の部分が理性的「心」,
それ以外の曲線群が感性的「宇宙」を表している
と解せます
双方の配置からも, 自己を包摂する
宇宙に対する熊楠の畏敬の念が感じ取られます