tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言: マジメも休み休み言え(河合隼雄)

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 岡本太郎『若い夢』

 

 

                Jan.16.2018

 

 

河合隼雄氏は,

1928年,兵庫県生まれの心理学者です

 

日本に初めてユング心理学を紹介し,

箱庭療法を数多く実践して世に広めた方です

 

主に京都大学で活躍されていましたが, 

晩年は国際日本文化研究センター

文化庁長官を務められるなど,  

他分野でも精力的な活動を続けておられました

英語を日本語の公用語にしようと提案され,

かなり本腰で取り組まれていました

 

小生は個人的には先生の主催されておられた

「日本ユングクラブ」に属していたこともあり,

河合先生の魅力は,

学問的造詣の深さはもちろんのこと,

その背景にあるユーモアのセンス,

時に「風狂」とさえ言っても過言ではないような,

奇想天外なアイデアも提出されていた点だと

思っています

 

超一流の学者さんがユーモアを言ってくれると

とてもほっとします

 

本日はこの,  小生が敬愛して止まない河合隼雄先生の

名言のいくつかをご紹介したいと思います

出典はすべて,『心の処方箋』(新潮文庫)です

(英文拙訳)

 

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 河合隼雄先生

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まずは,  この一言から…

 

    人の心など分かるはずがない

    We can't understand people’s minds.

 

あれ?

河合先生は心理学者だったのでは…

と思ってしまいたくなりますが,

人の心理を知れば知るほど,

知らないことが増えて,

結果自分の心もわからないのに

人の心など分かるはずがない,

と考えておられたようです

 

「君の気持ちは痛いほどわかるよ」と

口で言うのはいとも簡単ですが,

そのことばが一時期の慰めにはなっても,

そもそも生まれも育ちも現在の環境も,

何もかもそっくりな人などいるわけはなく,

家族でさえ100%分かり合えるなんていうことは

まずありえないのに,  

相手の気持ちがわかるはずはないのです

わかった気持ちにはいつでもなりますが… 

 

続きまして,

河合先生のエスプリの利いた一言です

 

100%正しい忠告はまず役に立たない

Probably, the advise that is just right can’t be useful.

 

はい,   確かにその通りでございます

としか言えない意見を言う人は,

身近な社会で心当たりがあるものです

しかもそういう方に限って,四六時中,

ずっと「正しい」ことばっかり言おうとし続けます

 

気がつけばその「正しさ」がこちらの心理的負担になり,

端的に申し上げると「うざい」という思いが

拭いきれなくなってしまいます

逆にいいますと,  

その方はこちらに忠告をすることを利用して,

自分は間違っていない,  自分は正しいと言いたいだけの

何かにおびえた主張を,

ていよく行ってらっしゃるだけだということになります

 

たとえ悩みの相談を持ちかけたとしても,

実はただただ聞いて欲しいだけで,

何もその答えをたった1つに決めて

これだよ

と答えて欲しいなんていう気持ちはさらさらない,

ということも多々あります

 

むしろ答えは自分の中に既に決まっていて,

それに気づいてもらって,その答えが正しいよ,

と,そっと言って欲しいだけだったというのが

本音だったりして…

 

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続きまして,

まさに深層心理学者ならではの一言です

     

   うそからまことが出てくる

    A truth will come out of a lie.

 

えー! 

まことはまことでしかないんじゃないんですか… 

 

そういえば河合先生は,  詩人の谷川俊太郎さんと一緒に,

「日本うそつきクラブ」を作ろうとされていました… 

 

でもこのことばは,  

ピカソの次の名言を彷彿とさせます

 

   芸術は我々に真実を教えてくれる嘘である

 

「まこと」とは,  通常は私たちが

表層意識で「正しい」と考えているに過ぎないものです

つまり,常識的な何かです

ところが,人の心理はその常識の下に

その何倍もの非常識が潜んでいて,

言い換えますと無意識の大海がそこにあって,

その中に住まう大小様々な生物たちが,

自分というアイデンティティーを営んでくれている,

ユングを始め深層心理学者は

そういう発想をしているのだと思います

 

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 Arnold Newman: Pablo Picasso

 

 

さらに,  いわゆる「根性論」に対しては… 

 

   「耐える」だけが精神力ではない

    To put up with it isn’t the only mentality.

 

日本ユングクラブで

十数回河合先生の講演を聞いたことがあるのですが,

繰り返しおっしゃっていたことのひとつに,

あまりにも「頑張ります」が口癖の

クライアント(相談依頼人)さんには,

「頼むから,  頑張らないでください」

と言うことにしていますというコメントがありました

 

精神力というのは,

目に見える言動で出てくるものだけではない,

その奥底に潜む,  むしろそれを支えている何かが,

私たちのアイデンティティーで非常に大切な領域である,

そう考えておられたからこそのおことばだと思います

 

そういった意味でしょう,

次のようにも述べておられます

 

    精神的なものが精神を覆い隠す

    What is mental covers the mentality.

 

世に言います,いわゆる「精神的なもの」が,

本当のその人の精神を閉じ込めてしまう

 

そんなこと言われなくても,

例えば子どもたちも

自分で自分のことは思いのほか考えているもので,

自分でしかわからない領域を,ことばにはできなくても

ひとり冒険しながら探ろうとしている最中に,

外野からあれこれ指示されっぱなしでは,

本人のポテンシャルである精神力が

端的に抑圧されてしまいます

自発性があってこそ

精神の成長の可能性は広がっていくものでしょう

 

種が水をもらうだけで

自ら芽生え

成長して

花を咲かせ,

最後には実を結ぶように…

 

 

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昨今の政治経済関係であれ,科学関係であれ,

「お偉いさん」方のほとんどは,  

なぜかネット環境下の相互監視の縛りからでしょうか,

自由な発言というが抑圧されている気がしてなりません

 

こうした河合先生のような心の広い目線を

どんどんどんどんなくされていて,

ただただ「正しい」ことしか言わない,

つまんない,判で押したような

「時間泥棒」になっておられる気もします… 

 

    道草によってこそ「道」の味がわかる

    You can taste ‘the road’ only by going out of it.

 

たまにはそういう方々こそ,

道草をしようとされればいいんじゃないでしょうか? 

その道草も,  子どもが大した理由もなく

草むらに分け入って,  

蚊に刺されたりすることもいとわずどんどん進んでいく,

あのような原動力に後押しされていく感じで… 

 

大の大人にそんなことできるわけないじゃないか!

 

ですって?

河合先生,  こんなこと言われたんですが… 

こう泣き付いたら,  先生はきっとこの至言をおっしゃいます

 

    マジメも休み休み言え

     Stop saying the right things so many times.

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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