tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語の名言:この世で最も偉大なことは自ら足る方法を知ることである(モンテーニュ )

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                                                     Jan.10.2018

 

 

ミシェル・エケム・ド・モンテーニュは,

1533年生まれのルネサンス期のフランスを

代表する哲学者です

モラリスト,または懐疑論者と呼ばれ,

17世紀のデカルトパスカルにも

多大な影響を及ぼしました

 

代表作『エセー』は、

西欧世界初の本格的人間論と称され,

フランスのみならず各国に広まりました

 

その引用はプラトンアリストテレスセネカらが

主であり,聖書の引用がほとんどなく,

1676年には無神論の書として禁書とされました

 

本日はこのキリスト教思想の磁場から脱し,

独自の思想を展開したモンテーニュ の名言のいくつかを

英訳と共にご紹介したいと思います

 

 

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モンテーニュ

 

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まずは,よく知られていますフレーズ二つから…

 

    What do I know?

  (〔仏〕Que sais-je? クセジュ?)

    わたしは何を知っているだろうか?

 

これはモンテーニュ が「懐疑主義者」と呼ばれた

元になったと思われることばです

 

中世ヨーロッパは,カトリック教会の権力が

強力なもので,人々の価値判断の全てが

教会の神父の教えに基づかなければならない

とされていた状況でした

 

ところが,  16世紀に入り,

カルバンやルター等の宗教改革により

カトリック教会の対抗軸として加えて

プロテスタントが台頭してきていました

教会権力を通してでしか一般大衆は

神とつながれなかったところ,

聖書をちゃんと読み込めば神と直接つながりうる

としたプロテスタント思想が

一気に開花しようとしていた頃でした

 

現にモンテーニュ は 

このカトリックプロテスタント

仲裁役さえしていました

 

のちにデカルトが「我思う,故に我あり」という

方法的懐疑を表明する素地が,

このモンテーニュの懐疑に感じられます

 

また,もはや諺と言っていい次のことばも,

モンテーニュのものでした

 

    Saying is one thing and doing is another.

    言うこととやることは別のものである

 

うがった見方かもしれませんが,

「言うだけ」の中世カトリック教会に対する,

一個人の人間としての独立宣言とさえ思われます

 

旧来の社会体制に対する個人的な懐疑から,

モンテーニュは現実の人間を深く洞察した上で,

生き方を探求しようとしていたのでしょう

 

カトリック教会に対する痛烈な皮肉とも思える

一言もあります

 

    Nothing is so firmly believed

    as that which we least know.

    最も知られることのないものこそ

    最も固く信じられるものである。

 

「最も知られることのないもの」=神,

と言わんばかりの発言です

 

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続きまして,  モンテーニュの教育論です

 

    In the education of children

    there is nothing

    like alluring the interest and affection,

    otherwise you only make so many asses

    laden with books.

    子どもの教育については

    ものごとに対する興味と愛情をかきたてることが

    なによりである,

    でないと,さながら本を背負った

     ロバを養うだけである

 

本を背負ったロバ…

現代日本で教育に携わる者として

何も言えない熾烈な一言です

ものごとに対する興味と愛情,

自然とそれが喚起できたら最高の教育でしょう

 

知識よりも知恵の養成が優先され,

その延長で知識を蓄積していかれる方法が,

今後 AI 技術の発展等で

教育の現場にも望まれるところではあります

 

AI技術の真の有効活用ができる思考力,  

応用力をいかに身につけさせられるかが

今後の日本の教育の最大のテーマとなることでしょう

 

アインシュタインも次のように語っています

 

    Any man who reads too much

    and uses his own brain too little

    falls into lazy habits of thinking.

    本をあまりにもたくさん読みすぎて

    自分自身の脳をあまりにも使っていない人は

    だれでも怠惰な思考習慣に陥る

 

読書も

過ぎたるは及ばざるが如し,

なのでしょうか…

 

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モンテーニュは自らの生活を振り返り

次のように述べています

 

    If I would have to repeat this life,

    I’d like to live the very life of mine;

    for I don’t regret the past,  

    nor do I fear the future.

    もし再びこの人生を繰り返さねばならないとしたら,

    私の過ごしてきた生活を再び過ごしたい

    というのも,私は過去を悔まず,

    未来を恐れもしないからだ

 

過去を悔やまず,  未来を恐れもしない

これは「永遠の今」に生きている宣言とも捉えられます

また,  過去の罪業を懺悔し,  

来世,神の国に生まれ変わることを追求しようとする

カトリック教会の姿勢と

真っ向から対立する発想でもあります

 

人間としてのまっとうな生き方を

深く鋭く思惟し続けた結果でしょう

 

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広隆寺 弥勒菩薩半跏思惟像

 

 

そして彼は以下のような至言を残しています

 

    The greatest thing in the world is

    to know how to be self-sufficient.

    この世で最も偉大なことは

     自ら足る方法を知ることである

 

自ら足る方法…

 

思わず,老子の「知足者富」を連想してしまいます

 

 知人者智、自知者明、勝人者有力、自勝者強、
 知足者富、強行者有志、不失其所者久、死而不亡者壽

 人を知る者は智なり,自ら知る者は明なり
 人に勝つ者は力有り,自ら勝つ者は強し
 足ることを知る者は富み,
 強めて行う者は志有り
 其の所を失わざる者は久しく,
 死して而も亡びざる者は寿(いのちなが)し

 

日常に本当に満足出来たら,それはそれは最高です!

 

はたして,モンテーニュ はじっさい,

そうした満足感を得ていたのでしょうか?

 

たぶん,得ていたように思われます

こんなことばも残したほどですから…

 

    When I play with my cat,

    who knows

    whether she is not amusing herself with me

    more than I with her?

    私が猫と戯れているとき,

    私が猫と戯れているほどには

    猫が私と戯れてはいないなどと,

    誰に分かりえようか

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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