tsuputon's blog

英語の名言をベースに, 哲学から医学・薬学に至る雑学を, ゆるまじめにご紹介していきます

英語で名言を:僕等の性格は不思議にもたいてい頸すじに現れている。(芥川龍之介)

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                                                               Jan.9.2018

 

 

小生が個人的に最も影響を受けてきました小説家は,

芥川龍之介です

本を読むのは幼少期から大好きだったのですが,

なぜか小説よりも伝記やノンフィクションものが多く,

気づけば,まともに一通り読んだと言える小説は

龍之介のものだけだったのです

 

なぜ龍之介に惹かれたのかといいますと,

小学校高学年の時の『蜘蛛の糸』を読んで

水彩画を描いてくるという夏休みの課題で,

画面の八から九割を,灼熱地獄と

その空中を蜘蛛の糸を手繰り寄せて懸命に登っている

カンダタと後続の罪人らの様子を描き,

極楽を残りのスペースで上のほうに細く描いたところ,

担任の先生に想定外に褒めていただき,

ドーパミンが出たからです

 

そしてその日の夜,龍之介の写真を国語便覧で見て,

あんな昔に

こんなかっこいい長髪の日本人作家がいたんだと,

とても興味を持ちました

 

本日は,  こんな極私的な好みからで恐縮ですが,

芥川龍之介の名言のいくつかをご紹介したいと思います

(英語は拙訳です) 

 

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まずは,  龍之介の視野の広さが伺える一言から…


    我々の生活に必要な思想は、

    三千年前に尽きたかもしれない。

    我々は唯古い薪に、

    新しい炎を加えるだけであろう。

    All the thoughts we need in our lives

    may have come out three thousand years ago;

    we can only add new fire

    to the old firewoods.

 

龍之介が仏教研究をしていたことはよく知られています

子ども向けの短編小説を書くにせよ,

仏教的メッセージを込めようとしていたそうです

その点では,  宮沢賢治と同じです

 

龍之介がどう考えて三千年としたのかは

分かりますかねますが,

ブッダがいたとされる時期が

今から約二千五百年前位だとしますと,

おおよそその頃と思ってのことだったのでしょうか

 

約四千年前の

古代バビロニアの宮殿の柱に刻まれていた碑文を

二,三十年かけて解読した考古学者が発表した

その内容の冒頭部分が,

 

    『今の若いもんは…』

 

だったそうです…

 

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古代バビロニアの遺跡 

 

 

続きまして,「嘘」についてのコメントです

 

    私は不幸にも知っている。

    時には嘘によるほかは

    語られぬ真実もあることを。

    Unfortunately, I know

    that some truth can’t be sometimes told

    only by a lie.

 

ピカソも次のように述べています

 

  Art is the lie that enables us to realize the truth.

  芸術とはわれわれに真実を悟らせてくれる嘘である

 

龍之介は生まれながらに芸術的環境に育ちました

その中で,

単にことば面で「正しい」ことを言う人たちよりも,

芸術と言う巨大な「嘘」を通してこそ

語られうる真実があるのだと,

自然と納得していたのではないでしょうか

 

そうした自らの生まれ育ちについて,

自嘲的に「不幸にも」と付け加えている気もします

 

こうした気づきは,龍之介にとって

プラスにもマイナスにも働いたことでしょう

特に対人関係において「嘘」というものは,

隠された最大のキーワードのような気もします

 

    あらゆる社交はおのずから

    虚偽を必要とするものである。

    All of our interactions themselves

    need lies.

 

自分の利益だけを求める嘘は邪悪でしかありませんが,

相手のことを慮り,敢えてつく「嘘」は,

いわゆる「ホワイト・ライ」であり,

結果,自分も相手も傷つかずに済む「芸術」たり得ます

 

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そのあまりにも繊細かつ鋭敏な感性のためか,

龍之介は社会的偽善にとても敏感でした

そのことをよく表しています名言です

 

    道徳は常に古着である。

    Morality is always secondhand clothes.

 

「常に」としている段階で,

龍之介のあきらめを感じます

より具体的には…

 

    道徳の与えたる恩恵は

    時間と労力との節約である。

    道徳の与えたる損害は

    完全なる良心の麻痺である。

    The blessing that morality gives is

    the saving of time and labor;

    the damage that morality gives is

    the complete paralysis of conscience.

 

道徳が決められたものであれば,

常識となり,その分みんなの合意の上でのことなので,

時間と労力が省けます

それが道徳のプラスの面…

 

そして同時に,何たることか,  道徳は

「完全なる良心の麻痺」だと

龍之介は断じています

 

ここからは個人的な推測になりますが,

道徳=公的,  良心=個人的なものだとしますと,

社会参加する際に,  わざわざ

「人と接する時は何何しましょう」という

決まり事のように「道徳」を決める必要が

なぜあるのだ,

なぜ,個人個人が自らの家庭で幼少期から

良心をはぐくみ,その善なるものを成長するにつれ

自分の属する社会に持ち寄り,

互いに交流していくようにならないのか…

 

そうした社会こそ,龍之介は理想的な場だと

捉えていたのではないでしょうか

 

    強者は道徳を蹂躙するであろう。

    弱者はまた道徳に愛撫されるであろう。

    道徳の迫害を受けるものは、

    常に強弱の中間者である。

    The strong will use morality as they want,

    while the weak will be consoled by morality.

    Those who are persecuted by morality

    are always the middle in-between.

 

道徳による善悪二元論

道徳とはその背後に

発案者の思想を狡猾に内在させうる装置です

龍之介は現代日本を予見していたとしか思えません

そして,社会の「歯車」なんかになるんじゃない,と…

 

義務教育で「道徳」の時間かぁ… 

 

 

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最後に,   芸術的レトリックの名言を二つ…

 

    人生は一箱のマッチに似ている。

    重大に扱うのはばかばかしい。

    重大に扱わねば危険である。

    Life is like a box of matches;

    it’s ridiculous to deal with it greatly,

    and dangerous if we don’t do that.

 

人生は何が起きるか分からない綱渡りです

この絶えざるジレンマ,緊迫感を

見事に凝縮し濾過させた一言です

 

そして…

 

   僕等の性格は不思議にも

   たいてい頸すじに現れている。

   Strangely enough, our characters should emerge

   on our necks. 

 

このフレーズに初めて触れた日以来,

思わず,首にクリームを塗って寝る習慣をつけました

 

それでは,このへんで

ごきげんよう

 

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